No.252
2002.3

ISASニュース 2002.3 No.252

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第7回

宇宙でろうそくを燃やす方法!?

産業技術総合研究所 若 山 信 子  



 誰でも幼い頃,砂場で磁石に砂鉄が引付けられるのを見て,磁石の不思議に驚かれたことがあると思う。磁石は鉄ばかりでなく,強弱はあるが,すべての物質を引付けたり,反発したりする。私はこの磁気力利用,例えば地上で低重力環境を作る方法や燃料電池の効率向上などについて研究している。ここでは宇宙実験における磁石利用についてご紹介しよう。

宇宙でろうそくは燃えない!

 「高温の気体,液体は密度が小さくなるため上方へ移動する。」これは地上の常識である。このような自然対流は化学工学の観点からみれば熱伝導,物質輸送など重要な役割を果たしている。ところが宇宙では無重力のため自然対流が発生せず,地上の常識では考えられない様々な問題が生じてくる。NASAの実験では「宇宙でろうそくに火を灯しても,30秒も経たずに消えてしまう」ことが明らかになった。

 私たちは上砂川の地下無重力実験センターで,この実験を再現してみた(北大工伊藤研究室と共同)。図ABCは,ライターに使用されるブタン炎を使用した実験結果である。ろうそくのような拡散炎では,自然対流で新鮮な空気が供給されるので燃焼が継続する(図A)。炎が縦に長いのは対流のためである。

 つぎに無重力環境になると対流が存在しないため,一瞬火炎は丸くなる(図B0.76秒後)。この場合,酸素ガスの供給,炭酸ガス,水の除去は拡散過程に依存し,その輸送速度が非常に遅いため,炎は燃焼ガスに囲まれて酸素ガスが供給されなくなり,数秒間で殆ど消えかかることが明らかになった。



宇宙でろうそくを燃やす方法

 燃焼に必要な酸素ガスは常磁性で磁石に引付けられる性質がある。この磁気力を利用すると無重力環境でも対流を発生させることが可能である。磁場が最強になる場所に炎を置けば,空気は磁場に引付けられて炎に供給され,反対に磁場に反発する性質のある燃焼ガスは排除される。

 図A'B'C'は最高6キロガウスの永久磁石を利用した実験結果である。図A'は重力下の炎であるが,図Aと比べ磁場をかけることで燃焼は促進され,炎は明るく,そして小さくなっている。次に無重力の10秒間,炎は重力場よりも明るく燃え続けることが観察された(図B'C')。

 この研究発表をきいた毛利衛氏は「宇宙でろうそくを灯し誕生パーテイを開けますね。」と冗談を言われたが,磁気力は対流を誘起するばかりでなく,浮力で気泡を制御するなど,その他にも今後,宇宙における利用価値は大きいのではないかと思われる。私は宇宙へドライバー,ペンチのような工具を持参するように,ぜひ永久磁石持参をお勧めしたい。

(わかやま・のぶこ) 


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