No.222
1999.9

ISASニュース 1999.9 No.222

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第6回 遠赤外線で宇宙の映像を見る
 dash「圧縮型」半導体センサーの多素子化 dash

東京大学教養学部 土井靖生  

 遠赤外線--波長が数十〜数百ミクロン(可視光の数百倍の波長)の光--を測る検出器を手作りする話を紹介しよう。波長の異なった『眼』で見ると,宇宙は様々に異なった姿を見せてくれる。『遠赤外線の眼』に映るのは星間空間に漂う-200℃前後という極低温のチリやガス。これらの物質は星々や我々の体へと進化する基本物質である。遠赤外線は星々の誕生を探り,宇宙の進化の歴史を紐解くには,欠くことの出来ない波長である。

 遠赤外線の観測にはゲルマニウム(Ge)に極く微量のガリウム(Ga)を混ぜた半導体結晶(Ge:Ga素子)を用い,光が結晶に吸収されて生じる電気信号を取り出す。これで波長100ミクロン以下の光が検出できる。更に長い波長まで観測したい場合には,裏技として,この半導体結晶に強い圧力をかけて結晶構造を歪め,無理やり観測できる波長を伸ばすことができる。あまりスマートなやり方ではないが,今のところ波長200ミクロン以下の遠赤外線に対してこの『圧縮型Ge:Ga検出器』が,最も感度の良い検出器である。

 詳細な宇宙の映像を得るためには,検出器の素子数が多い方が良い。遠赤外線で宇宙を見るために『圧縮型Ge:Ga検出器』も多素子化したい。しかし,多素子化に伴って,検出器が無制限に大きくなってしまっては困る。遠赤外線は地球の大気をほとんど透過できず,観測は大気の外の宇宙空間で行なう必要がある。検出器一つが何kgにもなってしまったのでは,「スモール・イズ・ビューティフル」の伝統を誇る宇宙研の人工衛星に載せて頂くわけにはいくまい。「出来るだけ多くの検出素子を,出来るだけコンパクトに」,これが現在,我々の開発の課題である。

 『圧縮型Ge:Ga検出器』を多素子化するための最大の困難は,なんと言ってもGe:Ga素子を(壊さないように)圧縮する事にある。一つ一つの素子を別々に圧縮していたのでは,とてもコンパクトな検出器を作る事はできない。そこで,多数の素子を一列に積み上げ,これを一度に加圧する事にした。そうは言っても,簡単ではない。1mm角Ge:Ga素子一つにかかる力は最大70kgにもなる。1mm角の積み木を縦に積み上げて,その上に大人一人が飛び乗る....と言えば,その困難さ(無謀さ??)を分かって頂けるだろうか。幸いにも我々は,8つの素子を一列に積み上げ圧縮した検出器の開発に成功した。


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 次のステップは,この積み上げた素子を何列か並べて2次元化し,本格的な「カメラ」にする事である。しかし,ただ並べただけでは各列の加圧機構が邪魔をして,列と列との間に隙間が空いてしまう。そこで我々は,光を各素子に導く光路管を工夫し画像の隙間をなくす事にした。金属板を精密加工し各列の素子を納める小部屋を,適当な間隔を空けて配置する。一方で光の取り入れ口は1mm間隔で隙間無く並べる。隣同士の間仕切りの厚みは,わずか0.1mmである。これを何段にも積み上げ,素子を加圧する。こうして現在までに,4列×8素子32素子のアレイ検出器の開発に成功した。このコンパクトな圧縮型Ge:Gaアレイ検出器は,その方式が世界的にもユニークなだけでなく,その素子数,検出感度ともに現在世界最先端の物である。たかが32素子などと侮ってはイケナイ。


 現在,気球望遠鏡にこの検出器を搭載し観測を行う準備を進めている。観測は,インドTATA研究所との同で行われる。11月に迫った観測へ向けて,準備は急ピッチである。これとは別に,更に発展した5列×15素子75素子とした検出器を赤外線天文衛星計画ASTRO-Fに搭載する予定で開発を進めている。

(どい・やすお)



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