No.220
1999.7

ISASニュース 1999.7 No.220

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イタリア − 歴史,伝統,底力 −

荒木哲夫   

 ミラノの空港に着陸直前,窓から観ると ,緑の中にヨーロッパ特有のレンガ色の屋根があちこちに点在していました . . .「これがイタリアだ!」。

 「2nd ISAS-TEMPE Joint Workshop」に同行せよと高野教授から命令を受け,期待と不安を胸に成田を出発,シベリヤを横断しての約13時間の西走は,5月の末,コソボ紛争の真最中でした。

TEMPE」とは「イタリア国立研究評議会材料及びエネルギープロセス技術研究所」という超長い名前の略称です。そして,宇宙研との共同研究の約定に伴う2年1回Workshop(研究集会)の第回目です。

写真1:ボナッソーラの海岸 
(会場は,写真ほぼ中央の建物) 

 会議場のある場所は,北部のミラノから南南西に車で約3時間ほどの,地中海の小さな入り江に面する「ボナッソーラ」という町です。海岸(海水浴場)から数メートル高い場所にある小さな元教会の建物が会場で,中にはいると,外の強い日差しとは逆にひんやりと涼しく,小ニースと呼ばれるのも頷けます。

 正面の祭壇中央にはOHP用のスクリーンが掛けられていますが,最上部には聖人と天使の彫刻がはめ込まれています。開会当日,ダークスーツに身を包んだ3人の神父様(実は会議の委員)が祭壇上の席に着いた途端,場内は静寂な雰囲気に包まれました。大題目「宇宙推進及びその材料」と銘打ったセッションは,場所柄とはいえ,厳粛なムードで始まりました。内容は,「ロケットの数学的設計方法」,「推進燃料の性能測定技術」,「ロケットやその火工品の安全管理」,「宇宙開発技術の商用化,低コスト化」等々多岐にわたり,長い間固体ロケットの仕事に携わってきた私にとっては興味深いものばかりでした。スペインの大学から参加した女性科学者エバ助教授は流暢な英語と手慣れた話術で聞き入る人達を魅了し,以前,高野教授の下に研究員として来られていた,ロシア科学アカデミーのボリス教授,TEMPEのボルピ,ザノッティの両博士も熱弁を振るわれました。
写真2:白熱した論議の様子

 合間のディスカッションでは,会の創設者高野教授を中心に,司会者も段から下りて,熱のこもった議論を交わしました。

 この宇宙へのひたむきな情熱を目の当たりにし,この集会が極めて意義の深いものであると痛感しました。

 休憩時間に高野教授が「懺悔してきます」と祭壇左側のカーテンの中に入って行かれ,しばらくして,さっぱりとした表情で戻って来られました。

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 後でお聞きしたのですが,懺悔室はトイレに改造されたのだそうです。イタリアのトイレでは,水を流すレバーが簡単には見つかりません。縦20cm,横25cmほどの大きな長方形の板を押す場合が多いようです。

 脱線ついでに,少しイタリアの感想を述べたいと思います。イタリア語は日本語と同様,母音で終わるため,ややこしい発音の違いを意識せず,会話ハンドブックを片手に単語を読めばどうにか事足ります。しかし,調子に乗って長いフレーズを読み上げた途端,その3倍くらいの言葉が返ってくるので要注意です。

 イタリアの鉄道の駅には,その大小に拘わらず,改札口が無く直接ホームに行けます。そういえば,ミラノの地下鉄にも,フィレンツェのバスでも切符を回収する人も設備もありませんでした(但し,切符売り場はあります)。主な都市にはそれぞれ特徴のあるドゥオーモと呼ばれる14,5世紀頃建てられた巨大な教会があり,訪れる人を圧倒します。ある建物内の壁にそれとなく飾られた「ヴィ−ナスの誕生」を前に,「本物はどこにあるの?」と聞いて叱られました。

 歴史上,複雑な変遷を経て,今なお祖先の莫大な文化と伝統を維持し続けるイタリアの底力と余裕を感ぜずには居られませんでした。

 今回の出張では,イタリアの方々の親切さや人なつっこさに触れましたが,特に,Dr.ボルピー,不慣れな私達を精力的な気配りでお世話をしていただき本当にありがとうございました。

 末筆ですが,この貴重な体験を得る機会を与えて下さった高野教授と優しい気遣いを頂いた同行の皆様に心から「グラッツィエ」を申し上げます。 NATO軍の離陸許可待ちで約1時間遅れで,「アリベデルチ イタリア」となった次第です。

(あらき・てつお)


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