No.212
1998.11

ISASニュース 1998.11 No.212

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備えあれば憂いなし

山本 善一   

 9月26日から10日間かけて,ノルウェーのスピッツベルゲン島,アンドーヤ,スウェーデンのキルナを調査してきた。目的は2000年11月にスピッツベルゲン島から打ち上げる SS-250-2号機を打ち上げるべく,そのための地上設備の現地調査であり,実験主任の向井先生に日程のお膳立てをして頂き,それに稲谷先生,ロケット班の吉田さん,私の3名が同行した。行きの飛行機の中で,吉田さんが「東奔西走の原稿頼まれませんでした?俺行く前に頼まれたんだけど,絶対嫌だと言って断ってきましたよ。そのうち山本さんのところにも依頼が来ると思いますよ。」と妙な予言をしておられた。まあ4人もいるんだし,確率は1/4か。飛行機が落っこちる確率よりは高そうだが,大丈夫だろう,と高をくくっていた。それにしても北へ行くのに東奔西走とは何か滑稽な感じである。でも結局野田さんに泣きつかれ,結局私が書くはめに。こうなったらみんなの秘密をばらすしかなさそうである(覚悟しといて下さいよ)。

 さて成田から飛行機で11時間半かけてコペンハーゲンに。その間全席禁煙の機内では,タバコ中毒の残り3人はとても辛そう。吉田さんはスチュワーデスにニコチンガム(実際には禁煙パイポみたいなもの)を貰い何とか凌いでいたが,後の2人は無理して熟睡作戦の様子。コペンハーゲン空港に着くと3人は一目散に喫煙コーナーへ(このパターンは成田に戻るまで延々と繰り返された)。1時間後今度はノルウェーのオスロへ。オスロの空港で円をクローネに替えようとするが,機械が故障中。銀行はもう閉まっており,聞けば2日後まで開かないとか。クレジットカードをもっていたので全員助かったが(備えあれば憂いなしその1),これでも本当に国際空港なんでしょうか?外へ出るとさすがに涼しい。でもこのくらいの涼しさは私にとってはむしろ快適。女房曰く“あなたは脂肪の服をもう1枚着ているから寒くないのね”,今回もその典型的なパターンか。まあ北欧に来ても寒くないんだからと,“服”の高性能ぶりに自信を深める。

 オスロに1泊し,翌日はいよいよスピッツベルゲン島の玄関口ロングヤーベンへ。さすがにセーターを着るが,それほど寒くない(気温0度)。ホテルでチェックインを済ませて早速仕事開始。車で30分ほど急な斜面を登り,近くの山の頂上へ。ここには NASA が建てた SVALSAT と言う地上局があり,その調査が目的。実験の時はここでロケットからのテレメータ電波を受信してくれることになっている。長旅の疲れや時差ボケが抜けないうちにいきなり仕事とは…,向井先生も人使いが荒い。私以外の3人は分野が違うのでつまらなそう(しっかり証拠写真撮らせて頂きました)。一応仕事をしたふりをして外に出ると思ったより涼しい。仕方ないのでジャンパーも着る(備えあれば憂いなしその2)。ところがである。仕事のために持ってきた GPSレシーバを使うには,建物の外に出て,しかも手にかざして持っていないといけないと言う事実に,ここではたと気づく。しまった手袋持ってくれば良かった。風はビュービュー吹きすさび体感温度はマイナス10度くらい。自慢の脂肪の服も手には何の役にも立たない。ふと隣を見ると,稲谷先生は準備万端(手袋,コート,マフラー,帽子までしっかりかぶって,ニヤニヤしている。備えあれば憂いなしその3)。何なんだこの準備の良さは。人は本当に見かけによらないものである(残り3名の意見一致)。翌日訪れた射場のニューオルソンはこれぞ北極圏という寒さ。自慢の”服”も役立たず。GPS のせいで凍傷気味。何だか体中の筋肉が痛くなる。誰だこんな寒いところでしかも冬にロケットを打とうなどと言い出したのは(M先生ゴメンナサイ)。でも翌日はからりと晴れ本当に絵葉書になりそうな美しさ。やっぱり来て良かった…?仕事も無事済ませ,夜はオーロラ見物にチャレンジ。らしきものは見えたが期待外れ。緯度が高すぎて(北緯78度)オーロラのリングの中に入ってしまうため,すごいオーロラは見えないのだとか。でも北極星が真上にあってその周りをカシオペヤと北斗七星が回っている。しかもよく見ると春夏秋冬の星座が同時に見えている(但し北半球の星座だけ)。そうかさそり座はいつまで待っても見えないのか,などと考えている時,頭上を1等星くらいの明るい人工衛星が通過。日本で見るのと違い,途中でスーと消えずいつまでも明るいままである。なるほどこれが太陽同期軌道というやつか,と納得。

 ニューオルソンの後は,アンドーヤのロケット実験場を調査し,1泊。飛行機で飛んではすぐ調査し1泊,というきついスケジュールは向井先生の陰謀か,はたまた早く日本に帰らせてあげようと言う優しい心遣いか。そのせいかどうか知らないが,M先生ナルビックの駅の側で遂にドブにはまってしまったとか。でも何と言っても話題の豊富さでは吉田さんでしょう。次の空港で降りるのに乗り継ぎかと美人スチュワーデスに聞かれて思わずイエスと答えてしまい,着陸後降りようと思ったら彼女に「機内で座って待ってなさい。」と何度も引き留められたり,キルナでは飛行場に向かう車に荷物を詰め込むのを忘れ,「あの中にパスポートも航空券も入っているのにどうしよう。」と青ざめてみたり。おかげでみんな疲れも忘れ,楽しい旅の思い出ができました。

(やまもと・ぜんいち)


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