小宇宙 1997.7 No.196

No.196
1997.7

ISASニュース 1997.7 No.196

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新スペースVLBI入門 (1)
大きな電波望遠鏡をつくる

平林 久

 「電波望遠鏡」とは,わけのわからないもののようです。でっかいアンテナが空をむいているかと思えば,VSOPチームは,電波天文衛星「はるか」が地球上のアンテナと一緒になってHST(ハッブル宇宙望遠鏡)の100倍の解像度の絵をつくるなんて言っています。しかも,もう簡単な絵ができ始めています。

 編集委員会は,本コーナーで6回にわたって,VSOP画像に至る説明の機会を与えてくださいました。「管理部の皆さんにもしっかりわかるように」というお達しです。村田泰宏さんと私が,相手役をつとめます。最終的には,VSOPで映像ができる「カラクリ」が「わかったつもり」になるのが目標です。

 野辺山の電波望遠鏡の解像力の順位
 長野県の野辺山高原にいくと,野辺山電波天文台があります。そこにはたくさんのアンテナが並んでいます。よくみると,直径45mのアンテナひとつ,10mアンテナ6個,80cmアンテナ84個と,グループ分けができます。他にもあるのですが,目をつぶりましょう。この3つのグループが,それぞれひとつの電波望遠鏡なのです。

 45mの電波望遠鏡は,最高の解像度を発揮する115GHz(波長3mm)で,人の目よりよい17秒角の解像度で宇宙を観測できます。10mアンテナ6個は,全体で600mを超えて並び,115GHzで,そのへんにある市販の光学望遠鏡と同じ解像度1秒角ほどです。最後の,600m弱のT字型にひろがった80cmアンテナ群は,観測周波数17GHz(波長1.7cm),34GHz(波長9mm)のそれぞれで10秒角,5秒角の解像度で太陽を観ています。

 電波望遠鏡の解像度も光学望遠鏡の解像度も同じ考えで決まります。電波も可視光も電磁波の違う周波数の部分ですが,その波としての性質が完全にはっきりした像をつくる事を妨げています。これは,電磁波でなくても,音波でも同様です。これを「回折」といいます。

 そして結局,「観測する波長」と「望遠鏡のひろがり」との比だけで解像度が決まります。このまま計算すると単位はラジアンです。私達の目でたとえると,観測する波長は0.4μm(青色)から0.8μm(赤色),望遠鏡のひろがりは瞳の直径3mmぐらいと言えます。この結果,1分角(60秒角)ほどの解像度になります。

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 電波は光に較べて波長が長いので,いい解像度を得ようとすると,大きな「瞳」が必要となります。解像度を得るためならば,ひとつの超大アンテナを作らなくても,小さなアンテナをばらまくので事足ります。その努力の姿が野辺山の例でみれるわけです。

VSOPで35万kmの瞳をつくる  

 電波望遠鏡を,「電波で宇宙を観るもの」と説明すると誤解を招くことがあります。レーダーのように電波を相手にぶつけて能動的に相手を観るものではありません。「電波で」でなく,「電波を」なのです。光学望遠鏡が光の宇宙を観るように,「電波望遠鏡は電波の宇宙を観る」ものです。こうして肩の力を抜いて理解を始めると,自然な理解ができます。「わかっていたつもりの光学望遠鏡」と,「わかっていなかったつもりの電波望遠鏡」が,一緒に自然にわかります。 その自然な延長上にVLBIやスペースVLBIがあります。

(ひらばやし・ひさし)



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