No.195
1997.6

ISASニュース 1997.6 No.195

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ロシア・サンクトペテルブルグにて

森田泰弘

 ぼくは,ホテルなんてシャワーとベッドさえあればオンボロでもいい,と常々思っている。だが,ヨーロッパでは高級ホテルがよく似合う(本気で言っているのではない)。今泊まっているのは,サンクトペテルブルグでも最高級と言われるホテルの一つだ。しかも,小さいながら居間がある。決して望んだわけではない。ぼくにとって,ベッドの部屋とテレビの部屋が別々なのはかえって具合が悪い。これがロシア流と言うものか。ところで,ロシアには,もはや謎めいた雰囲気はない。部屋のテレビにはアメリカのスポーツ専門チャンネルが入っていて,折しも熱戦に沸くNHL(アイスホッケー)の情報を見逃すこともない。かつてはオリンピックなどでしか見ることのできなかったロシアのホッケー選手たちも,今は北米大陸で活躍しているのだから,それも当然だろう。

 今回の旅は,ぼくにとっては初めてのヨーロッパ遠征である。その主な目的は,当地で開催の第4回国際航法システム会議出席だ。ロシア主催のこの国際会議は,航空・宇宙関連の航法や誘導・制御をテーマとしており,AIAAも協賛となっている。総勢は100人をやっと超す程度の比較的こぢんまりとしたものであるが,出席国としては,ロシアをはじめ,米国,英国,フランス,ドイツ,中国,韓国,ルーマニア,スウェーデン,ウクライナなど幅広い。ロシアを除いて最も参加者の多かった国は米国で,およそ20人を送り込んできた。空軍関係の発表もあったが,米国軍人が友人としてロシアの地を訪れ自らの研究成果について語るとは,ホテルのテレビでマイケル・ジョーダンを見るより驚きだ。これが歴史の流れと言うものか。今後の宇宙開発の行く末を考えると,我が国としても,このような機会にロシアと交流を持つことは望ましいことであろう。(もし東奔西走が出張報告を兼ねているなら,この段落だけ載せてください。)


 サンクトペテルブルグはソ連崩壊まではレニングラードと呼ばれていた。ロシア革命もこの地で勃発したと言う歴史の町である。昔は歴史など全く興味がなかったが,最近はそうでもない。革命の中心地,宮廷広場の真ん中に立ったりすると少しぞくぞくする。ぼくにも,老化という避け難い現象がついにやってきたのか。さて,先輩諸先生方から散々脅されていたようなモスクワの怪しい風景は,古都サンクトペテルブルグではかけらも見られない。この町は,バロック風の古い建物が美しく整然としていて,どことなく西欧的な雰囲気である(ヨーロッパに行ったのはこれが初めてだが,なぜかそう思う)。そして,大小様々な運河が市内を縫っていて,当地が北のベニスと呼ばれる所以である。道ゆく人たちの身なりは,こうした街並みに溶け込むように,皆きれいだ。一方,そんな町のたたずまいとは対照的に,ローラーブレードを楽しむ女性やブルズのジャージですかした子供などもいて,結構アメリカ文化が押し寄せているらしい。夜の治安のことも少し心配していたが,白夜を目前に控えた5月の末は深夜まで眩しいくらい明るく(ネオンではない),平和な雰囲気だ。夜も安心して寝ることができる。電話も鳴らない。

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 ここには,エルミタージュと呼ばれる世界でも3本の指に入るという大きな美術館がある。美術館巡りの好きな人には最高だろう。野球ファンに当てはめれば,ヤンキースタジアムかシカゴのリグレーフィールドぐらいの価値があるに違いない。ありがたがらなければなるまい。この美術館は装飾の美しいバロック建築で,ロシア革命まで歴代皇帝が冬の間の住居として使用したという冬宮が,その一部に含まれてる。実に貴重な芸術品が展示されているのだが,もったいつけずに陳列してあるところがなんともおおらかで印象的である。この美術館の他にも,有名なキーロフ・バレエ団が市内のマリインスキー劇場で活躍しており,この町は確かにその文化と芸術を誇れる町であろう。

 ロシアの人々はというと,彼らは実に丁寧で,頼んだことも一生懸命やってくれる。だが,仕事の流れはあまりシステマティックではないようだ。例えば,会議の登録に時間がかかったり,あるいは,オプションツアーの美術館見学では,あるはずの迎えの車がなかったりなど。だが,これらは非難すべきことではない。見方を変えると,おおらかさと言う長所につながるのかも知れないのだ。

 さて,根が楽天的なのか,旅先で嫌な思いをしても帰る頃になるとあまり思い出せない。反対に,楽しかったことが一つでもあればその旅は最高だ。今回も,そんな感じで帰ることになりそうだ。

(もりた・やすひろ)


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