No.190
1997.1


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- No.190 目次
- 新年のご挨拶
- SFU特集にあたって
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 回収を2週間後に控え,身に絡み付くような圧迫感を払いのけたい心境に駆られる。クリスマスや年末の喧騒がむしろ疎ましい。そういえば,SFUに関係してここ数年安穏とした年始を迎えたことがない。今日は当番ではないので机に積まれた書類の山を切り崩しにかかる。内線電話。「運用当番の中川です。SFUの状態が大変に悪いので‥‥」。運用室(SOC)に駆け付ける。軌道変更を行った後,まる4日間コマンド運用を休止して本日再度スラスタ噴射の予定であった。姿勢制御コンピュータAにより太陽指向3軸安定化されているはずのSFUが,どういうわけか冗長系Bによって太陽を捕捉するべく回転していることが第1可視の追跡により判明した。今までに遭遇したことのない異常な状態である。また,データレコーダがオフされていたので電源を投入し,予定していた運用は中止してデータ収集に専念し第1可視を終了した。

 関連各社の技術支援メンバーに招集の連絡がなされた。さらにコマンド運用休止期間中の衛星の状態を表すデータが沖縄局にダウンリンクされていたはずであるので,この蓄積データのSOCへの転送作業が実施されていた。この状態の最も安直な解釈は,第1可視開始直前に姿勢制御コンピュータになんらかの不調をきたし,自動的に安全機能が働き冗長系コンピュータが太陽捕捉を実施中というものであった。仮にこれが正解だとすると太陽捕捉は30分程度で完了するので,第2可視では太陽指向モードで入感するはずである。

 第2可視が始まった。衛星状態のモニタ画面は赤い警告表示のオンパレード。状況は前回と変わらず,電源オンにしたレコーダも再度オフとなっている。事態は最悪であることが認識された。オフラインで動ける私は所内のマネージメント関係者に連絡をとり始める。鹿児島局による5回の追跡の後,第6可視を沖縄局にて運用するための手配にかかる。さらに追跡運用を継続するために山田助教授にキャンベラ局,ゴールドストーン局,ワロップス局の確保をNASAに申請してもらう。どうやら今夜は徹夜の運用になるようだ。追跡運用支援の各社に緊急で業務依頼を行う。今夜の宇宙研担当者も決めなくてはならない。

 第3可視に至り,技術支援メンバーが集まり始める。蓄積データ解析の結果,SFUの回転を止めるべき姿勢制御スラスタは連続噴射に近い指令が送られているにもかかわらず機能していない。しかも天皇誕生日,日曜日,クリスマスとまる3日間この状態で回転をつづけていたことが判明する。Z軸周り制御スラスタに故障が発生し姿勢が傾斜したため,コンピュータは自己異常と判定し冗長系コンピュータに切り替えて太陽捕捉を開始したものの,例の故障スラスタが機能しないために回転がとめられない状態に陥っていたのであった。このように故障の原因が明らかになったので,その処置としてスラスタの切り替えが計画される。しかし症状は小康状態であるので,さらに分析して慎重に対処することとなる。

 技術支援メンバー全員が集合して第4可視を迎える。可視後のデータ解析の結果,電源担当者からバッテリーは空であることが告げられる。SFUが日陰になると電源電圧が極限まで落ち込むため,自動的にレコーダがオフされているのであった。日照中の僅かな充電量と日陰中の消費がギリギリのバランスで釣り合っている状態であり,姿勢制御コンピュータがいつ停止してもおかしくない。直ちに回転を停止させ太陽電池パネルに十分の太陽光を照射させねばならない。

 第5可視にコマンド送信を行い,復旧を試みることとなる.第6可視は沖縄局におけるSFUの仰角が不十分,またそれにつづくキャンベラ局からの追跡は2時間ほど後,しかもSFUの日陰中となる。つまりこの第5可視は救命のための最後のチャンスかもしれない。コマンドラインの検証,管制装置への登録,コンパイル,と作業が進む。可視開始20分前,手元の時計を合わせる。各管制装置の確認OK。地上局との回線OK。入感1分前。入感予定時刻30秒経過ようやく入感,それまで静止していたモニタ画面にはSFUの回転を示す大きく蛇行したグラフが描き始められる。地上局アップリンク開始,周波数掃引,衛星受信器ロック・オン,モジュレーション・オン,コマンド送信開始。グラフの傾斜が急に緩慢になる。姿勢制御モニター担当が叫ぶ,「止まった!」。

 深夜SOCを抜け出す。今日も長い1日だった。明日はまた何が起こるか分からない。SFUの機能は回復するのであろうか。これで正月休み返上で追跡業務になるだろう。SOCへ向かうSFUプロジェクトマネージャー栗木教授とすれちがい状況を詰問される。「とりあえず一命は取り留めました」と答えた。回収ミッションへのインパクトを憂慮してのことであろうか,溜息とも苦笑ともつかない「異音」を残して暗がりに消えていった。

(國中 均)


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