No.190
1997.1


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 私がSFUを宇宙で回収するSTS-72ミッションに指名されたのは1994年12月12日であった。本格的な訓練に入ったのは翌年の3月6日からで,本ミッションでは打上げ上昇時に操縦席において船長とパイロットの補佐をする任務を担当することになっていたため,訓練中最も多くの時間を過ごしたのはシャトル・ミッション・シミュレータの中であった。また,ロボットアームの操縦訓練,相模原運用センター(SOC)とヒューストンのミッションコントロールセンタ(MCC)を繋いだ総合シミュレーション等もかなりの時間に上った。中でも一番思い出に残っているのは,打上げ直前の1月4日に行われたSFU回収総合シミュレーションで,SOCとMCCそしてクルーの呼吸はぴったりで,本番に向けてチーム全体がいい状態になっているというゆとりが感じられた。

 打上げは地上側システムの不具合やスペースデブリとのニアミスを避けるため23分遅れたが,信望の厚いMCCフライトディレクターのジェフ・バントル氏の明解な状況説明もあり,フライトデッキ(シャトル居住室)の中ではクルー全員が落ち着いて打上げカウントダウンの再開を見守った。

 軌道上で明るく輝くSFUを最初に肉眼で確認できたのはSFUの手前約90Hの距離であった。軌道修正噴射,SFUとシャトルとの通信リンクの設定,ロボットアームの回収姿勢への姿勢変更と順調に進み,SFUの真下約200mの距離で太陽電池パドル(SAP)の格納コマンドをシャトルから送信し,スムーズにパドルが閉じていく様子が確認された。シャトル操縦室の天井の窓からはSAPはほとんど格納されているように見えたが,収納が完了したことを示す信号が送られてこないままSAPのモータが停止した。その状況は訓練で何回も何回も行ってきたシナリオ通りであった。次に必要な手順はクルー全員が熟知していた。非常時の操作手順を開始する前に「これはシミュレーションではない」と一呼吸入れて手順を再確認してから,再度,冗長系によるSAPの格納を試みたが結果は同じであったのでSAPは放出せざるを得なかった。

 回収に必要な姿勢制御を行うタイムリミットが迫っていた。まだよく覚えているが残り7分になろうとしていた時に,MCCからのSFU地球指向姿勢の操作の指令は一瞬の遅れもなくクルーに伝えられ,SOCとMCCのてきぱきとした対応の様子がはっきりと感じられた。

 SFUへの最終接近,そして,ロボットアームによる捕獲も順調に行われ,私は慎重にSFUのカーゴベイへの格納を試みた。荷物室にはSFUを固定する金具が荷物室側壁に4カ所,船底に1カ所の計5カ所ある。固定準備完了表示がSFUの姿勢の調整を行ってもどうしても4つ同時に点灯しない。4つ同時につかないとラッチを閉じてはならないことになっていた。「もしかしたら,シャトルからSFUへ電力を供給するコネクタ(ROEU)もうまく結合できないのでは?」といった思いも脳裏を走った。実は今回のミッションの相乗り実験衛星であるNASAのOAST-FLYERの格納はそのラッチ機構のクリアランスが非常に小さいため,過去の経験から様々な対応法を検討済みであった。しかし,SFUについてはこのような状況は全く想定していなかった。SFUのバッテリーが残り1時間を切っていることもあり,MCCやSOCの皆さんがきっとヤキモキしているだろうと思いながらも,とにかく必要と思われるSFUの姿勢調整操作をするが一向に状況が変わらない。この時の,MCCからの部分的にラッチを閉じるようにとの指令は的確な判断であった。船底を含めた5つ全てのラッチが閉じ,ROEUの結合そしてSFUのヒータへの電力供給を確認する信号を見たときに初めてほっとした。

図41.シャトルのSFU固定金具.左:船底部,右:側壁部

 1月20日未明のKSCへの帰還後,その日の午後ヒューストンのエリントン空港に戻ってきた時には小雨の降る中多くの方々が出迎えてくれた。栗木先生も温かく帰還を祝う言葉をかけて下さったが,その時の先生のくしゃくしゃになった笑顔を見た時,「本当によかった」としみじみ思ったことを覚えている。

(若田光一,NASDA有人宇宙活動推進室)


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