No.187 |
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「宇宙研には夢がある。」とは言い尽くされた言葉であるが,私にとっては宇宙研に在職して初めて実感させていただいた。
私が宇宙研に赴任したときには,ビッグバンという言葉の意味さえ理解していなかったのである。そのような宇宙オンチの私の極めて初歩的な質問に,先生方が快く素人に分かりやすく説明してくださったことが,そもそも私が宇宙(宇宙研)にのめり込むきっかけであったように思う。その後,宇宙やロケットのことを少しずつ勉強するにつれ,その不思議さ,面白さに魅了されていくのであるから,やはり宇宙には人を引き付ける何かがあるのであろう。
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しかし,ご存じのようにEXPRESSは残念な結果になった。打上げ直後に秋葉所長から状況を聞いた時のショック,何かの間違いではないかと混乱した頭で衛星が軌道に乗ったという一縷の望みを捨て切れないまま,所長や関係の先生方と徹夜で必死に善後策を講じたことが昨日のように思い出される。
このことで私は,宇宙では,数多くの実績があってもいつでも新しい現象が起こり得るものであり,それがさらなる科学技術の発展につながること,宇宙開発はまだまだ発展途上であり,常に大きなリスクを伴うものであることを体験した。そしてこの体験で,宇宙では何が起きても不思議ではなく,宇宙研では常に成功に向けて危険と戦っているのだということが,さらに私を引き付けていったのだから宇宙とは不思議なものである。
EXPRESSについては,その後,秋葉所長が国会に出席を求められ原因等について質問を受けるなど,様々な厳しい対応を迫られることになった。 その間,私が感じたことは,失敗に対する社会の目の厳しさ(冷淡さ)である。宇宙科学を始め,ビッグサイエンスといわれる分野では,巨額の税金が投資されるだけに,失敗は許されないとする社会的な風潮があるのだろうか。もちろん安易な失敗は許されるべきではなく,万全を期すために関係者が全力を傾注しなければならないことは当然である。だが,宇宙科学は未知の分野への挑戦であり,最先端の開発に向かっていかなければ発展はないであろう。そのためにはリスクがつきまとうものであることに理解を示す意見があってもよいのではないだろうか。関係者によるそのための広報活動がますます重要に思う。
さて,このような状況のもとで,SFUの最終調整に臨んだのである。その過程では不具合の発生等,様々な出来事に遭遇し,EXPRESSの後だけに関係者のプレッシャーは大変なものであった。そのプレッシャーを跳ね除けて打上げ,回収の成功に持っていった宇宙研と関係者の力は並々ならぬものであり,大いに拍手を送っても良いであろう。
SFUのNASAから宇宙研への引き渡しに,たまたま私もケネディスペースセンターに同行させていただき,SFUと対面したときの感激は一生忘れないであろう。金ピカのSFUを目の前にし,太陽電池パネルの切り離し跡を見て,「本当によくぞ戻ってきてくれた。」と思うと自然と目が潤んだものである。
宇宙研では,M-Vロケットによる様々な野心的なミッションに挑戦しようとしている。これから様々な場面で前述のような厳しい目を意識させられることがあると思うが,安易な妥協をすることなく頑張ってほしいと思う。
宇宙研に在職して,宇宙(宇宙研)大好き人間に変身した(させられた?)私は,年明けのM-V初号機によるMUSES-Bの打上げに今から心をときめかせている。もちろん,成功を信じて!
(筑波大学経理部長・元管理部長,きのした・きよはる)
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