No.185
1996.8

<研究紹介>   ISASニュース 1996.8 No.185

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衝撃波/乱流境界層干渉における
空力加熱現象の研究

   九州大学工学部  麻生 茂


 有翼飛翔体を初めとする宇宙往還機の飛行に際しては様々な問題を克服する必要があるが,流体力学の観点では空力加熱現象の解明が重要な問題の一つである。特に,衝撃波/乱流境界層干渉により引き起こされる空力加熱現象は様々な特徴を有しており非常に興味深い。
 著者は以前,宇宙科学研究所における有翼飛翔体 (HIMES)研究グループに参加させていただき,また最近では共同利用施設としての宇宙科学研究所の超音速風洞を利用させていただき,衝撃波/乱流境界層干渉により引き起こされる空力加熱現象の基礎研究を行って釆たので,その中で2〜3の最近の話題を紹介したい。

 H-ロケットのようにSRBを有する機体は,lift− off する際に補助ロケットから生じた衝撃波がロケット本体に入射し,局所的に高い圧力上昇,空力加熱を引き起こすことが知られており,著者らはその基礎実験を行った。図1 (a)は,マッハ数4の超音速流に発達した平板乱流境界層にSRB模型から生じた衝撃波が入射し,衝撃波/乱流境界層干渉を引き起こす様子を可視化したものである。入射衝撃波により境界層が剥離し,衝撃波入射点よりも上流より剥離衝撃波が生じておりそれがSRBによって再び反射されている様子がうかがえる。



(a)干渉場のシュリーレン写真


(b)平板上の圧力分布、熱流束分布

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 図1 (b)は平板上における圧力分布及び熱流束分布でありほぼ剥離線 (S1)に従って圧力及び熱流束が上昇している。また,流れの付着線 (A)に沿って圧力及び熱流束の極大値が存在していることがわかる。熱流束のピーク値は上流の非擾乱値の3.7倍にも達する。このように局所的に熱流束が大きく変化する流れ場ではそれを高い空間分解能で測定するセンサが必要となる。



(c)多層薄膜熱流束センサ
図1 補助ロケットからの衝撃波入射によるロケット本体の空力加熱現象(M=3.84,P0=1.26MPa,Tw/T0=0.69MPa,Re=1.61x107

図1 (c)は著者らが開発した多層薄膜熟流束流束センサである。流体から物体への伝熱面表面に設置した10μE程度の薄い熱抵抗膜(SiO)の上下面に生じる温度差を金属薄膜抵抗温度計を用いて計測し,予め較正した膜厚と熟抵抗膜の熱伝導率を用いて熱流束を算出するものである。現在のところ周波数応答性は1〜2kY程度である。

 衝撃波/乱流境界層干渉場では、流れ場の条件により境界層は一次剥離のみならず二次剥離を生じる。ところが一般にこの二次剥離域は境界層厚さに比べて非常に小さいのでその可視化は困難であった。著者らは宇宙科学研究所の大型超音速風洞の側壁境界層(約50@)を用いることによりその可視化を行った。図2はマッハ数4の気流中における先端が円柱の鈍頭フィンによる衝撃披/乱流境界層干渉場のカラーオイルフロー写真である。色々な場所から異なった色のオイルを歩み出させることによりそこでの局所的な表面流れを捉えることができた。フィン先端の表面流線は一次剥離線まで達することができない。これは強い逆流により二次剥離が生じるためでありそれより前方では剥離域であるにも関わらず流れの向きは主流と同じであることから二次剥離域と判断される。



図2 カラーオイルフローによる鈍いフィンに誘起された干渉場の二次剥離現象の可視化 (M=4.16,P0=0.601MPa,T0=299K,Re=3.61x107/m)

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図3 純いフィンに誘起された干渉場の瞬間シュリー レン写真(M=4.13,P0=0.586MPa,T0=297K,Re=2.47x107/m)

 一般に衝撃波/乱流境界層干渉場では流れは非定常に変動していることが知られている。図3は壁を光学ガラスで置き換えて変動流れ場を可視化した瞬間シュリーレン写真である。境界層より外側の非粘性衝撃波とともに境界層の剥離に伴う剥離衝撃波等が観察される。この波が非一様であることから干渉場での剥離現象は一様ではなく,局所的に部分剥離していることがわかる。この干渉場での衝撃波を伴う境界層の非定常現象はその原因,そのメカニズムが未だ解明されておらず今後の研究がさらに必要である。

 最後に,ここで紹介した内容の一部は、宇宙科学研究所の辛島桂一先生,佐藤 清さんはじめ多くのスタッフに支えられて得られたものであり,また宇宙科学研究所のプロジェクトのために多くの風洞試験時間を必要としながらも,我々に快く学外利用をさせていた だいた宇宙科学研究所の関係各位に深く謝意を表したい。

(あそう・しげる)



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