No.181
1996.4

ISASニュース 1996.4 No.181

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宇宙通信工学(4)  通信方式

山 田 隆 弘 

 今回は,テレメトリとコマンドの伝送に使われる通信方式の話をします。ディジタルデータを伝送するための通信システムの基本的な構成を示すと下図のようになります。この図では,左側が送信側を,右側が受信側を表します。これから,この図に従ってテレメトリとコマンドに使用される方式の説明をしていきます。

 最近の衛星では,テレメトリで伝送すべきデータ量 が非常に多くなっていますので,衛星で発生されたデータは,必要に応じて適当なアルゴリズムによって圧縮されます。データの圧縮は,データの中に含まれる冗長度を取り除くことによってなされます。圧縮の方式には,ロスレスとロッシーの二種類があります。ロスレス方式では,圧縮されたデータを復元したときに元のデータが完全に復元されますが,圧縮率はあまり大きくありません。ロッシー方式だと,復元されたデータは元のデータと全く同じになるとは限りませんが,大きな圧縮率が得られます。どちらの方式を採用するかは難しい問題ですが,ロスレスを採用した衛星もあ れば,ロッシーを採用した衛星もあります。ところで,コマンドデータの場合は,圧縮しないのが普通です。

 圧縮されたデータは,伝送中のビット化けによって大きなダメージを受けますので,伝送中のビット誤り率が低くなるように通信システムを設計しなければなりません。ビット誤り率を低くするためには,アンテナを大きくする,送信電力を大きくする,伝送速度を遅くする,などの方法がありますが,現在の通信方式 で重要な役割を演じているのが誤り訂正符号です。誤り訂正符号は,伝送中に発生したビットの誤りを数学的な処理によって訂正するものですが,これを使えば誤りの多い回線でも誤りの少ない通信ができることになり,送信電力を大きくするのと同等の効果を得ることができます。現在,衛星のテレメトリで最もよく使 われている誤り訂正符号は,畳み込み符号とリード・ソロモン符号という二つの符号を組み合わせる方式ですが,この符号を使うと,同じビット誤り率を達成するのに送信電力を6倍にするのと同じ効果が得られます。

 コマンドについては,BCH符号という符号が最もよく使われています。ただし,コマンドの場合は,受信したコマンドに含まれている誤りを衛星上で訂正する 場合もありますが,間違って訂正してしまうと衛星の生死に関わることもありますので,受信したコマンドに誤りが含まれているかどうかの判定のみを衛星上で行い,誤りが含まれていたコマンドは地上に再送を要 求するという方式が一般的です。

 誤り訂正符号化の次のステップは変調です。変調とは,調子が変になることではなく、無線周波数の信号 にデータを乗せるための処理のことです。まず,送るべきデータが0であるか1であるかによって副搬送波と呼ばれる一定周波数の信号の位相を0度あるいは180度に変化させます。このような変調方式をPSKといいます。そして,その結果得られた信号によって搬送波と呼ばれる信号の位相をある範囲で変化させます。この変調方式をPMといいます。ただし、高速のテレメトリの場合には,副搬送波は使わずに搬送波の位相を直接 データで変化させます。

 このようにして変調された信号をSバンド(2GHz)や Xバンド(8GHz)やKバンド(10〜30GHz)の無線信号によって送信します。

 受信側では,いま説明したのと逆の順序で元の信号を復元します。データの中に0や1が連続している部 分があると,元の信号の復元が難しくなる場合がありますので,送信側でデータにランダムなデータを足し合わせ,受信側でそれを取り除くというような事ことも最近の衛星では行われています。

(やまだ・たかひろ) 


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