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129億年前の初期宇宙に、最強スターバースト銀河を発見

"A dust-obscured massive maximum-starburst galaxy at a redshift of 6.34", D.A. Riechers et al., Letter Nature (18th April, 2013)

宇宙科学研究所の松原英雄教授をメンバーとする国際共同研究チームが、129億年前(ビッグバンで宇宙が作られてから8.8億年後)の宇宙に「最強スターバースト銀河」を発見しました。HFLS3と呼ばれるこの天体は、これまでに見つかった中で最も古い最強スターバースト銀河で、宇宙が始まって以来、既にこの頃には激しい星形成活動が起きる環境が整っていたことを示しています。この発見は、宇宙初期の星形成活動の多様性を示す新たな証拠として、今後の研究の展開が期待されるものです。この成果は、英科学誌「ネイチャー」の2013年4月18日号に発表されました。なお、今回の発見には、宇宙科学研究所が開発に関わったミリ波広帯域分光装置Z-Specが大きな役割を果たしました。

天の川銀河には1000億個もの星が存在しますが、宇宙にはそれよりもずっと多くの星を含む、大質量銀河がたくさんあります。このような大質量銀河は、早期型銀河(その形状から楕円型銀河あるいはレンズ状銀河とも呼ばれる)に分類され、おそらくその形成初期に非常に激しいスターバースト(多くの星が爆発的な勢いで作られること)を起こし、現在見られる大部分の星を一挙に形成したのではないかと考えられています。しかし、ビックバン後の宇宙の歴史の中で、いつ、どのようにして天の川銀河の中でスターバーストが始まったのかは、未だに解決されていない問題です。

コーネル大学、カルフォルニア工科大学などからなる研究グループは、ハーシェル宇宙望遠鏡によるサブミリ波(注1)サーベイで見つかった天体の中から、この波長帯での「色」(波長毎の明るさの比)を用いて非常に遠方にある、明るい銀河を選び出しました。それらの天体をミリ波広帯域分光装置Z-Spec(注2)や、複数の電波干渉計を用いて詳しい観測を行いました。まず、数多くの分子輝線(一酸化炭素、水蒸気など)と原子イオンの微細構造輝線から正確な赤方偏移を決定しました。次にこれらの輝線の強度から、この銀河内にある星間物質の量を測定しました。その結果、銀河の一つが、赤方偏移z = 6.34(注3)にある最強スターバースト銀河であることを発見しました。

「最強スターバースト」とは、今まで知られている中で最も激しく星を作る現象で、現在の天の川銀河の2000倍以上の割合で、新しい星が生まれているというものです。今回みつかった銀河には、太陽の1000億倍もの質量の、暖かく重元素(注4)を多く含む星間物質があることが分かりました。この星間物質の量は天の川銀河の40倍で、まさにガスから星が作られている最中にあることがわかります。重元素は、星の中の核融合反応や、超新星爆発などによって作られます。大量の重元素を含む星間物質があるという事は、その時点で大量の星が生まれ、超新星爆発などで重元素がまき散らされたことを意味しています。宇宙全体で、一年あたりに星が作られる割合(星形成率)は、約100億年前に現在の数十倍もあったけれども、それよりもさらに昔になるとむしろ低下しているというのが、最近の研究から明らかになって来ています。それにも関わらず、少なくともビックバンから8.8億年後(129億年前)には最大規模の強烈なスターバーストが起こる環境が存在していた、ということがわかりました。

最強スターバーストを起こす銀河は、まだ宇宙でそれほど多く知られていません。なぜこのような天体が、活動が穏やかだった宇宙初期に存在し得たのか?どのように作られ、進化していったのか?宇宙初期の星形成活動は、どれくらい多様だったのだろうか?今後、今回発見された銀河を鍵として、既に稼働を始めたミリ波サブミリ波干渉計ALMAや、JAXAを中心に検討が進められている次世代赤外線天文衛星SPICAによって、その成因や進化の解明が進むと期待されます。

  • 注1: 波長が0.1〜1ミリメートル程度の電磁波。地球大気の影響で地上からは観測が困難で、通常ハワイやチリなどの高い山や宇宙から観測を行う。
  • 注2: カルフォルニア工科大学・NASAジェット推進研究所・コロラド大学及びJAXA宇宙科学研究所が共同で開発し、カルテクサブミリ波天文台に設置したミリ波広帯域分光装置で、これまでになく広い周波数範囲を一度に観測できるため、銀河の赤方偏移の決定に威力を発揮する。
  • 注3: 遠方の銀河は、我々から高速で遠ざかっているため、ドップラー効果により銀河が放つ光の波長が長くなる(赤くなる)。z = 6.34 とは、静止しているときの波長に比べ、7.34倍に長くなって観測されているという事で、ここからこの天体の距離が129億光年であることが分かる。
  • 注4: ここでは、水素、ヘリウム以外のすべての元素。炭素、酸素、ケイ素、鉄やその他の金属をすべて含む。

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(上)今回見つかった最強スターバースト銀河HFLS3の広帯域スペクトル。1400〜2200ギガヘルツ(赤方偏移を補正したもともとの周波数)はカルテクサブミリ波天文台/Z-Specによるデータ。それ以外は電波/ミリ波干渉計天文台(CALMA、PdB、JVLA(注5))によるデータ。H2O、CO、OH、OH+, NH3、[C I]、[CII]といった輝線/吸収線が見られており、この天体の正確な赤方偏移z=6.3369が決定された。

(下右)HFLS3からの電離炭素微細構造線([C II] 157.7 マイクロメートル)の強度分布(等高線)を、銀河の紫外線の画像(橙色、ケック望遠鏡+補償光学付き近赤外線カメラによる。赤方偏移のため、銀河が放った紫外線が、地球からは赤外線の波長域で観測される)に重ねたもの 。[C II]輝線は若い星に温められたガスの分布を表している。(下左)HFLS3からの 158マイクロメートル付近での連続波放射(ダストからの放射)の分布(等高線)。z=6.34では1 秒角は18000光年の大きさであり、ダストやガスの分布が約1万光年に広がっていることがわかる。[C II]線およびダストからの連続波のデータは、PdBミリ波干渉計で得られたもの。

(注5)
 CALMA:The Combined Array for Research in Millimeter-wave Astronomy
 → カルフォルニア工科大学等が運営する米国カルフォルニア州のミリ波干渉計
 PdB:The Plateau de Bure Interferometer
 → フランスにあるミリ波電波天文学研究所(IRAM)のミリ波干渉計
 JVLA:Jansky Very Large Array
 → 米国ニューメキシコ州にある国立電波天文台の運用する電波干渉計

2013年4月24日

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