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スプライト及び雷放電の高速測光撮像センサ(JEM-GLIMS)の初観測データ取得について

国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに設置されたスプライト及び雷放電の高速測光撮像センサ(JEM-GLIMS:Global Lightning and sprIte MeasurementS on JEM-EF)が初の観測データを取得しました。

大阪大学・北海道大学・近畿大学・東北大学・スタンフォード大学・極地研究所・大阪府立大学・電気通信大学が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発したJEM-GLIMSは、高空間分解能をもつCMOSカメラ、高時間分解能をもつ測光器(フォトメタ)、VLF帯・VHF帯電波受信器によって、雷放電とスプライトを世界に先駆けて真上から継続的に観測します。この真上観測によって、地上観測データからの導出が困難であった雷放電とスプライトの水平方向の空間分布と時間的な発達過程を、詳細に調べることができます。さらに宇宙空間から真上観測することによって、地球大気による吸収・散乱の影響をほとんど受けることが無いため、発光強度を精度高く求めることができます。これまでJEM-GLIMS各機器の初期機能確認を終え、全ての観測装置の状態が正常であることを確認しています。

下図は、2012年11月27日 23時51分44.408秒(日本時間)にJEM-GLIMSが観測した、マレーシア上空で発生した雷放電発光を真上からとらえたCMOSカメラ画像データです。雷放電発光は、空間的に非一様な複雑な分布をしており、約20kmの空間的拡がりをもっていることが分かります。さらに、この雷放電では近紫外線の強い発光が波長150-280nmのチャネルで検出されています。雷放電が発する高度20km以下からの近紫外線の光は、大気中のオゾンなどによってほとんど吸収されてしまい、国際宇宙ステーションが飛翔する高度400kmには到達しません。このため、近紫外線が検出されたことは、雷放電よりもより高い高度での発光、つまり、高高度放電発光現象の発生を示唆しています。この妥当性を今後の研究によって検証ていく予定です。このように、雷放電と高高度放電発光を高精度に真上観測するのは、JEM-GLIMSが世界で初めてです。

図1

今回お知らせする観測例は、データの品質検証を行う前のものです。JEM-GLIMS研究チームとJAXAは、今後も連続的な観測を継続し、スプライトなどの高高度放電発光現象の検出を目指します。また、地上雷放電観測データとの比較によって、JEM-GLIMSで観測した高高度放電発光現象を引き起こした雷放電の電気的特性を明らかにしていきます。さらに、世界各国の研究者と連携し、JEM-GLIMSと地上光学観測器による高高度放電発光現象の同時観測も実施する計画です。

【牛尾知雄 大阪大学・准教授(JEM-GLIMS 代表研究者)のコメント】
JEM-GLIMSミッションは、2007年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォーム第二期ポート共有利用ミッションの一つとして選定されて、本年7月に無事打ち上げることができました。関係者の方々には感謝したく思います。今回の初期観測により機器の正常動作を確認することができ、またそれらのデータには非常に興味深い点が含まれています。今後、本ミッションにより、雷放電および高高度放電発光現象に関する大きな成果が期待されます。

補足資料

JEM-GLIMSによる観測結果:2012年11月27日 23時51分44.408秒 (日本時間)

図1

図1 CMOSカメラ画像データ(本文掲載図の再掲)
マレーシア上空で発生した雷放電発光をとらえたCMOSカメラ画像。連続する3枚の画像は、左から順に33ミリ秒(1ミリ秒=1000分の1秒)間隔で撮像されたデータで、雷放電発光の時間変化と空間的な拡がりが分かる。最も明るい雷発光領域は約10kmの大きさを、全体の雷発光領域は20km以上の大きさをもっていることが確認できる。

図2

図2 高速測光器(フォトメタ)観測データ
フォトメタによって観測された雷放電発光強度の時間変化波形。フォトメタはPH1からPH6までの6チャネルで構成されており、それぞれ異なる波長帯域の発光強度を計測する。図は上から下に向かって、近紫外線の波長域を計測しているチャネルから近赤外線の波長域を計測しているチャネルの強度波形データ。波長150-280nmのチャネルに強い信号が確認されることから、高高度放電発光現象の発生を示唆するデータとなっている。今後は地上の雷観測ネットワークデータとの比較から、高高度放電発光現象発生の妥当性を検証する予定。

図3

図3 VHF干渉計の観測データ
ポート共有実験装置(MCE)の底面に約1.5m離れて設置してある2式のVHFアンテナ(A-Unit, B-Unit)が、ほぼ同時に計測した雷放電起源のVHF帯パルス波形。この受信パルス波形1つ1つの到達タイミングの違いを求めることによって、電波の到来方向と電波放射源の位置を特定することができる。それにより、雷放電電流の時間的・空間的な拡がりを詳細に知ることができる。

図4

図4 雷放電観測時のISSの位置
2012年11月27日 23時51分44秒(日本時間)におけるISSの位置。マレーシア上空で雷放電を観測した。図中の黄色四角はCMOSカメラの視野を、赤色円はフォトメタの視野をそれぞれ示す。

スプライト及び雷放電の高速測光撮像センサ(JEM-GLIMS)について

観測ターゲット

JEM-GLIMSが観測ターゲットとしているのは、高度約10km以下の対流圏で発生する「雷放電」と、雷放電に伴って、高度約20-90kmで発生するスプライト、エルブス、巨大ジェットなどとよばれる「高高度放電発光現象」です。高高度放電発光現象は、約20年前に発見されましたが、カラム型やキャロット型などの違いを生む原因、雷放電の真上からの位置のずれを生じる原因、カラム型スプライトの本数を決める原因など、これら「スプライトの発生条件と発生メカニズム」については未だに謎とされています。これを解決する最も有効な手段が、高高度放電発光現象を宇宙空間から真上から観測する方法です。この手法によって、地上からの光学観測では推定が困難であった、雷放電や高高度放電発光現象の、空間分布や時間的な発展、親雷放電との位置関係などを容易に明らかにすることができるからです。

さらに、国際宇宙ステーションが飛翔する南緯51度から北緯51度の領域をJEM-GLIMSによってくまなく掃引観測することによって、TRMM衛星搭載LISの雷観測で得られた結果のように、高高度放電発光現象の発生分布と頻度を高い精度で求めることが出来ます。これによって、高高度放電発光現象が地球の大気組成の変化やオゾン化学に対してどのような影響を及ぼしているかを定量的に推定できると期待されます。

図5

図5 高高度放電発光現象の発生形態を示す模式図

JEM-GLIMSの観測装置

JEM-GLIMSの観測装置を図6に示します。JEM-GLIMSは大きく分けて、2式の光学観測器と、2式の電波受信器、およびそれらを制御する制御ユニット1式で構成されます。光学観測器は、CMOSセンサーを用いた雷放電・スプライト観測カメラ(LSI)2台と、光電子増倍管およびフォトダイオードを用いたフォトメタ(PH)6台で構成されています。 LSIは500m/pixの空間分解能で、主に雷放電と高高度放電発光現象の発生形態をとらえるのに対し、PHは0.05msの高い時間分解能で絶対発光強度を測定します。これらによって、雷放電と高高度放電発光現象の時間・空間変化を精密観測します。一方、電波受信器は、VLF帯電波受信器(VLFR)1台と、2台のアンテナ部と1台のエレクトロニクス部で構成されるVHF帯電波受信器(VITF)で構成されます。VLFRは、雷放電起源のVLF波動が電離圏で伝搬モードが変換され、ISS高度まで伝播するホイッスラー波となり観測されます。VITFは、約1.5m離れて設置した2台のアンテナによって雷放電励起のVHF帯電波パルスを受信し、干渉計として用いることで波動の放射源を特定することができます。VITFのアンテナ部の写真を図7に示します。これらの理学観測機器の電源制御、データ取得、イベントトリガ、データ圧縮を行い、上流機器とのコマンド受信、テレメトリ送信、データ転送などのインタフェースを担う機器が、理学機器制御ユニット(SHU)です。JEM-GLIMS全体のシステム構成図を、図8に示します。

図6

図6 JEM-GLIMSの観測装置

図7

図7 VHF帯電波受信器のアンテナ部。ポート共有実験装置(MCE)の底面に1.5m離れて設置されている。

図8

図8 JEM-GLIMSのシステム構成を示す模式図

2012年12月21日

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