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ブラックホール周辺から吹き出すジェットの不規則変動をとらえた
JAXAインターナショナルトップヤングフェローのポシャック・ガンディー(Poshak Gandhi)研究員を中心とする研究チームは、NASAの広域赤外線探査衛星(Wide-field Infrared Survey Explorer:WISE)が取得したデータを用いて、ブラックホール周辺が突然明るく輝きだす珍しい現象をとらえました。この結果はブラックホールとジェットについて新たな発見をもたらしました。
研究者たちはブラックホール周辺の極限環境についての理解を深めるためにジェットの研究を進めています。ブラックホールに物質を供給する「降着円盤」やジェットそのものについては、そこから放出されるX線、γ線、電波などの観測を通じて理解が飛躍的に深まっています。ところが鍵を握るジェットの付け根にある最も明るい部分の観測については、何十年にもわたる取り組みにもかかわらず困難なままでした。その降着円盤とジェットをつなぐ部分の観測が、WISEを用いた赤外線観測により新たに可能になったのです。
「太陽が突然でたらめに爆発を繰り返し、ほんの数時間のあいだ3倍も明るくなり、また元に戻ったと考えてみてください。このジェットで見られたのは、このような激しい変化だったのです」
と2011年10月10日発行のアメリカの専門誌『アストロフィジカルジャーナル・レターズ』に掲載される新たな研究結果の筆頭著者であるJAXAのガンディー研究員は語ります。WISEによる赤外線観測によって、恒星質量ブラックホール周辺から吹き出すジェットの根元部分の内側の領域を初めてとらえ、そこでのジェットの物理に迫ることができました。
さいだん座にあるGX339-4と呼ばれるこのブラックホールは以前から観測されていました。私たちの住む銀河系の中心近く、地球からは2万光年以上離れたところにあり、太陽より6倍以上重いと考えられています。ほかのブラックホール同様、きわめて高い密度で物質が集まっており、その強い重力のため、光ですら逃げ出すことができません。この天体の場合、星が超新星爆発を起こしてできたブラックホールの周りを伴星が回っており、そこから供給された物質の大部分はブラックホールへと落ち込みますが、残りは光速に近い速さでジェットとして吹き出していると考えられます。
「ブラックホール周辺の増光現象をとらえるためには正しい場所を正しいタイミングで観測する必要があります。WISEは高感度な赤外線画像を1年にわたって11秒毎に1枚ずつ撮り続け、全天をカバーすることで、この珍しい現象をとらえることができました」
とNASAジェット推進研究所でWISEのプロジェクトサイエンティストを務めるピーター・アイゼンハルト氏は述べています。
WISEを用いた小惑星探索計画であるNEOWISEの、同じ天域を繰り返し観測するという特徴を生かすことで、ジェットの変動をとらえることができるようになりました。ブラックホール周辺から吹き出すジェットの根元付近にあるこのような狭い領域に迫ることができたのはWISEのデータがあったからこそです。この領域は、太陽ほど離れたところに置いたコインの見た目の大きさほどしかないのです。
得られた結果は驚くべきものでした。ジェットの活動の変動は大きく不規則的で、11秒から数時間までさまざまだったのです。赤外線の色は大きく変化しており、ジェットの根元付近のサイズが変化していることを意味しています。ジェットの根元の半径はおよそ2万4000kmで、最大で10倍程度以上も変化していました。
「ブラックホールからのジェットを消防用のホースに例えると、私たちが発見したのは水の流れが間欠的で、ホースの太さ自体も大きく伸び縮みしているということです」
とガンディー研究員は語っています。
この新たなデータは地球表面の磁場の3万倍にも及ぶブラックホールの磁場を最も精度よく測定することも可能にしました。このような強い磁場こそが物質の流れを加速し絞り込んで細いジェットにするのに必要なのです。WISEのデータにより、かつてない精度でこの異常な現象のメカニズムを理解することができるようになりました。
- 新しいウィンドウが開きますブラックホールGX 339-4連星系とそこから吹き出すジェットの想像図 (c)NASA
- 新しいウィンドウが開きますブラックホールGX339-4からの赤外線の強い増光と減光を示すWISEの画像(動画)
動画は1日の期間をカバーしており、時間を短縮して表示してある。赤外線は目に見える光の15倍程度波長が長いものです。
「JAXAインターナショナルトップヤングフェローシップ」は日本を宇宙科学におけるトップサイエンスセンターとするための施策のひとつとして2009年から整備された制度で、世界各国で活躍する極めて優秀な若手研究者を任期付きで招聘するものです。現在Poshak研究員をはじめ5名の若手研究者が招聘されています。
WISEはワシントンにあるNASAの科学ミッション局のもと、ジェット推進研究所により運用されています。衛星は全天を2回掃天して主たる目標を達成したのちに休止モードに入りました。ミッションはメリーランド州グリーンベルトにあるNASAゴダード宇宙飛行センターで管理されているNASAのエクスプローラーズプログラムのもとで選ばれたものです。
科学観測機器はスペースダイナミクス研究所で開発され、衛星本体はボール・エアロスペース・アンド・テクノロジーズにより製造されました。また、科学運用とデータ処理はカリフォルニア工科大学のIPACで行われました。
2011年9月22日