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「かぐや」地形カメラでシャックルトンクレータ底部表面に水氷の不存在証明。 「サイエンス」誌(10/23)

月周回衛星「かぐや(SELENE)」搭載の地形カメラの成果が10月23日(米国時間)発行の米科学誌「サイエンス」(オンライン版)に掲載されました。地形カメラの観測機器チーム(※1)は、これまでの探査において水氷の存在が示唆されていた南極シャックルトンクレータ内の永久影(※2)領域の撮像、詳細な3次元立体視画像を世界で初めて行うとともに、当該部分の地表付近には氷が存在する証拠がみられなったことを論文で明らかにしました。

なお、今後は同様の解析を他の永久影が存在するとみられている極付近のクレータについても実施していく予定です。

※1 地形カメラの観測機器チーム主研究者:JAXA宇宙科学研究本部 固体惑星科学研究系 助教 春山 純一
※2 永久影:月の両極点付近のクレータの底など、太陽からの光が1年を通して、全く当たらない場所

図1-1 かぐやHDTVカメラによる月の南極(シャックルトンクレータ付近)

図1-1 かぐやHDTVカメラによる月の南極(シャックルトンクレータ付近)

図1-2 月の南極付近(クレメンタイン観測データ(NASA提供)に基づき作成)

図1-2 月の南極付近(クレメンタイン観測データ(NASA提供)に基づき作成)

シャックルトンクレータは、南緯89.9度、東経0.0度の月の南極近くに存在する直径21kmのクレータ。南極点近くに存在するため、ほとんど日光が当たらず、内部には永久影が存在する。永久影は、極低温となるため、水氷の存在の可能性が示唆されています。クレメンタイン衛星(1994年米国 打上げ)によるレーダ実験により水氷の存在が示唆されましたが、その後の詳しい実験では確認されていません。また、ルナープロスペクター衛星(1998年米国打上げ)に搭載された中性子分光計により、シャックルトンクレータを含む南極域に水素の濃集が示唆されていますが、水素が水氷の形を取っているかどうかはわかっていませんでした。

これに対して、今回サイエンスに掲載された地形カメラの論文においては、次のとおり、水氷がシャックルトンの底部表面で露出した形で多量に存在する可能性がないことを明らかにしました。
地形カメラによって得られたシャックルトンクレータの地形情報から、クレータ内部は90Kより低い極低温状態であることが示しています。このことは、水氷が存在していれば40億年でも数cmも昇華しないはずです。その一方で、地形カメラが映し出したシャックルトンクレータの内部には、水氷と見られる高い反射率の場所は存在しませんでした。このため、クレータ底部の表面付近には、水氷は露出した形で大量に存在する可能性はないことになります。水氷があったとしても非常に少ない量で土と混ざっているか、あるいは土に隠れてしまっています。実際、ルナープロスペクター衛星からの推定では、水氷はあっても数パーセントと考えられており、本観測結果と一致しています。

図2 地形カメラがとらえたシャックルトンクレータ(2007/11/19撮像)

図2 地形カメラがとらえたシャックルトンクレータ(2007/11/19撮像)

左:輝度強調前のシャックルトンクレータ(オルソデータから3次元化)。クレータ直径21km。Xは南極点
右:左の画像を輝度値の強調補正処理をしたもの。
※オルソデータとは、地形モデル(DEM)と地理座標を用いて観測データの位置歪みを取り除く処理を行ったデータ

また、地形カメラの観測データからシャックルトンクレータ内部の詳細な3次元立体視画像の作成にも、世界で初めて成功しました。この結果、斜面の角度は30°、クレータの深さは、4.2kmに達すること、直径6.6kmの同心円状の平底があること、斜面にはいくつかの小クレータがみられること、中央には、2〜300mの小丘があり、クレータ斜面にむかって丘陵が続くこと、ならびに周りの斜面から、崩れてきたと思われる堆積物とみられる部分もあることがわかりました。

図3 地形カメラによる3次元立体視画像

図3 地形カメラによる3次元立体視画像(拡大)

図3 地形カメラによる3次元立体視画像(2007/11/19撮像)

左:地形カメラデータから作成された3次元立体視画像。
右:左図の点線部の拡大図
下:左図の拡大

なお、シャックルトンクレータの縁は、水平面に対して約1.5°ほど傾いています。このため、太陽が、クレータの縁が傾いた方向にくるとき、クレータ斜面への入射が多くなり、内部を照らす散乱光も多くなっています。夏季でシャックルトンクレータの傾いた方向に太陽があるのは、年に数日で、非常に稀な機会でした。「かぐや」の地形カメラでは、昨年11月の観測機器の初期機能確認期間に、このような機会をとらえて、シャックルトンの内部の撮影に成功しました。

図4 シャックルトンクレータの形状と内部観測に必要な太陽の場所

図4 シャックルトンクレータの形状と内部観測に必要な太陽の場所

2008年10月24日

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