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太陽電池用「多結晶シリコン基板」の品質評価法の開発について

JAXA宇宙科学研究本部は、太陽電池用基板の主流である多結晶シリコン基板の品質評価法について、新たな評価法(注1)「弗酸水溶液浸フォトルミネッセンスイメージング法(特許出願中)」の開発に成功しました。従来法では、基板1枚あたり品質確認に20分程度の時間を要していましたが、新評価法によるとわずか1秒以下で品質確認することが可能となり、品質確認時間の大幅な短縮に成功した画期的な手法と言えます。本評価法は、最近の環境・エネルギー問題への関心の高まりから需要が急伸している太陽電池の生産性向上や高効率化等、太陽光発電システムの大幅なコストダウンに大きく貢献することが期待できます。

本評価法は、従来法(注2)と比べて、
(1)非破壊・非接触
(2)超高速・高分解能
(3)装置が非常に簡便
(4)製造プロセスと同時に測定が可能なので製造ラインに組込み可能
という特徴を持ちます。

太陽電池の種類は材料により、シリコンと化合物系の2つに大別され、今回の評価法の対象である、太陽電池用の多結晶シリコン基板は低コストなことと量産性に優れていることから、太陽電池生産量の大部分を占めております。

多結晶シリコン基板は半導体用のものに比べ低品質な原料を使い、簡素な製造プロセスを用いているので、基板に汚染や欠陥が多く入ってしまいます。そのため、多結晶Si太陽電池の性能は基板の品質に大きく左右されており、品質の評価が大きな課題となっています。基板の大きさは十数cm角で、その中に存在するミクロンサイズの欠陥を評価する必要があります。また、大量の基板を評価するために1枚あたり秒単位で評価する必要があります。従来法ではこのような高空間分解能性と高速性を兼ね備えた評価は不可能であり、革新的な手法が切望されていました。

本手法の原理は、基板に光を当てたときの蛍光(フォトルミネッセンス、PL)の強さで品質を判定するものです。装置はとても簡便で、基板全体に太陽光と同強度の一様な光を当て、発生した蛍光の写真を高感度CCDカメラで撮るだけというものです。蛍光像は基板の品質をそのまま反映する(品質の悪い部分で蛍光の強度が低下する)ので、基板品質を高速・高分解能に評価できます。ここで、基板の表面状態が重要な鍵となります。表面状態が悪いと、基板の品質を正確に評価することが難しくなりますが、基板製造プロセスで用いられる弗酸が非常に良好な表面状態を作り出すことを利用して、弗酸に浸けたまま測定を行うことで、最良の表面状態で品質評価を行うことを実現しました。

なお、本評価法は、4月6日発行の論文誌(注3) (Japanese Journal of Applied Physics Vol.46 No.15 pp.L339-341)にExpress Letter論文として掲載されます。

図1.  弗酸水溶液浸PLイメージング法の概略図

図2. 新評価法と従来法の比較

(a)新評価法により1秒で測定した画像と、(b)従来法で20分かけて測定した画像の比較。黒い部分が欠陥像(同品質の別基板の評価例)。
新評価法では、測定時間が20分から1秒へと1/1000以下に短縮されただけでなく、分解能が約20倍ほど向上したことにより鮮明に欠陥が捉えられている。

注1)弗酸水溶液浸フォトルミネッセンスイメージング法
シリコン基板を弗酸に浸すことにより、表面の電子状態を最良にしておき、そこへ光を照射して基板から発せられる蛍光像を高感度CCDカメラで撮影する。蛍光像には基板中の欠陥が鮮明に映し出される。
特許出願済(特願2007-045411)

注2)従来法としては一般的に、以下の2つの方法が使われています。
(1)マイクロ波光導電減衰法
半導体試料に光を照射した時の導電率変化をマイクロ波で検出し,同試料のキャリアライフタイムを測定する手法。
(2)表面光起電力法
半導体試料にいくつかの波長の光を照射した時の表面電位変化をウェハ近傍に設置した非接触のプローブで検出する事により、同試料のキャリア拡散長を測定する手法。

注3)
JJAP (Japanese Journal of Applied Physics) は世界50カ国以上で広く読まれており、海外でも高い評価を得ている英文論文誌です。中村修二氏の青色発光ダイオードの第1報が掲載されたのもこのJJAPです。Full Paper と Short Note を中心とする Part 1 を年20回程度、Letters の Part 2 を月2回程度発行しています。また,インパクトが大きく速報性が要求されると判断された論文は、Part 2 に Express Letters として迅速に出版されます。

2007年4月5日

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