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銀河の生い立ちに迫る ―大マゼラン星雲の赤外線画像―
「あかり」第一回目の全天観測完了間近
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の赤外線天文衛星「あかり」(注1)は、全天にわたる宇宙の赤外線地図作成のための観測を続けています。今年5月に本観測を開始してからほぼ半年が過ぎ、11月初旬には第一回目の全天観測を終えようとしています。月に隠されて観測できなかった天域がありますが、11月初旬の時点で、ほぼ計画通り全天の約70%についてデータ収集を完了する見込みです。
この観測の中で「あかり」は、銀河の生い立ちを調べる上で重要な観測対象である「大マゼラン星雲」(注2)の多彩な姿を、赤外線の多くの波長帯で高分解能で捉えることに成功しました。
「あかり」による大マゼラン星雲の赤外線画像と成果について
(1)大マゼラン星雲の遠赤外線画像
「あかり」は、大マゼラン星雲全体にわたる非常に活発な星形成活動「スターバースト現象」を捉えた鮮明な遠赤外線画像の取得に成功しました。(図1参照)
この画像は、星間ガスの雲に含まれる固体微粒子(塵)が新たに生まれた恒星の光で暖められ赤外線で明るく輝いている様子を示しています。このような全銀河規模の活発な星形成活動はスターバースト現象と呼ばれ、大マゼラン星雲に限らず多くの銀河の成長過程で起きると考えられています。また、円盤状に広がるガスや塵に対して、恒星はこの画面下方に紡錘状に集まっており(図3参照)、ガス・塵の分布と恒星の分布の中心は、お互いにずれていることが分かります。大マゼラン星雲では、私たちの銀河系の重力が引き金になって、このような分布のずれが引き起こされていると考えられています。
「あかり」により全天観測された画像は、IRAS衛星(注3)による画像(図2参照)に比べ、より細かい構造まで鮮明に捉えられており、スターバースト現象が起きている場所やその状況を、より詳しく知ることが可能です。これにより銀河の生い立ちで重要な役割を果たしたスターバースト現象の解明に迫ることができます。
図2:世界で初めて赤外線で全天観測を行ったIRAS衛星による大マゼラン星雲の画像 (観測波長100μm)
(画像提供 : Infrared Processing and Analysis Center, Caltech/JPL)
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(2) 大マゼラン星雲の近・中間赤外線画像
「あかり」は、大マゼラン星雲の一部の近・中間赤外線による精密観測に成功しました。(図4参照)。この画像では、ガスや塵に加え、年老いた恒星が数多く捉えられています。
「あかり」によるこれらのデータを用いて、恒星を構成していたガスがその生涯の末期に吹き出して星間空間に還され、それが再び次世代の恒星の原料となる、星の世界の輪廻を追うことが可能です。
この画像もIRAS衛星に比べて、はるかに数多くの星を検出できる「あかり」ならではの成果です。
なお、「あかり」は打上げ直後に2次元太陽センサーに太陽が捉えられないなどの問題が発生しました。また、衛星姿勢センサーの一つであるスタートラッカーにおいて、CCDセンサーの冷却器が故障する等の問題も発生しました。これらについては代替手段等をとり、観測は順調に進んでいます。
注1:「あかり」
JAXA「あかり」プロジェクトは、主に以下の機関の協力で実施されています。
名古屋大学、東京大学、自然科学研究機構・国立天文台、欧州宇宙機関(ESA)、英国Imperial College London、University of Sussex、The Open University、オランダUniversity of Groningen/SRON、韓国Seoul National University。
なお、遠赤外線検出器開発では情報通信研究機構の協力を得ています。
注2:大マゼラン星雲
大マゼラン星雲は、私たちの太陽系が所属する天の川銀河のすぐ隣にある銀河です。天の川銀河の10分の1の約100億個の恒星から成っています。太陽系からの距離は約16万光年です。 この星雲は、日本からは見えない南の空(かじき座)に、少し小さな小マゼラン星雲とペアになって雲のようにぼんやりと輝いているのを肉眼でも見ることができます。「マゼラン星雲」の名は、16世紀初めに世界一周を試みた大航海者マゼランが航海中に観測したことから付けられました。
注3:IRAS衛星
1983年に米・蘭・英により打ち上げられた世界初の赤外線天文衛星。赤外線による全天観測を行い、そのデータが現在でも天文学研究に使用されています。
2006年11月1日