宇宙航空研究開発機構 ISASサイトマップサイトマップ

TOP > トピックス > トピックス > 2006年 > 小惑星も日焼けする 〜科学雑誌ネイチャーに、「はやぶさ」のデータ解析結果の論文を発表〜

トピックス

小惑星も日焼けする
〜科学雑誌ネイチャーに、「はやぶさ」のデータ解析結果の論文を発表〜

9月7日発行の科学雑誌ネイチャーに小惑星探査機「はやぶさ」のデータ解析から発見された小惑星の日焼け現象についての論文が発表されました。
この「日焼け現象」は科学的には「宇宙風化作用」と呼ばれているもので、空気のない天体の表面が太陽風や微小隕石の衝突によって見た目が変化していく現象をさします。この現象は月の表面での起きていることが分かっていた現象ですが、今回「はやぶさ」が訪れた小惑星イトカワの表面でも起きていることがわかりました。

今回解析に用いられたのは、「はやぶさ」に搭載された近赤外線分光器のデータで、ブラウン大の廣井孝弘氏、JAXA宇宙科学研究本部の安部正真氏をはじめとする日米共同の解析チームによって明らかにされました。(ブラウン大学プレスリリースはこちら)

イトカワの表面には岩のごろごろした暗い表面のところどころに明るい部分が発見されています。この明るい部分はごろごろした岩が移動して、その下の表面がむき出しになっている部分であることが、探査機による近接撮像データから明らかになっていましたが、この部分がどのような状態になっているのかについては、まだ良く分かっていませんでした。
今回この部分の近赤外線分光器による反射スペクトル(太陽光の反射率の波長による違いで、近赤外の波長で見た目の色の違い)のデータを詳細に解析することにより、明るい部分は暗い部分に比べて、宇宙風化作用が進行しておらず、宇宙空間にさらされてからの時間が短い、比較的新鮮な表面であることが、定量的な解析によって明らかになりました。

イトカワの表面物質が、地上に落ちてきている隕石の中のうちの普通コンドライト(のうちのLL型コンドライト)と呼ばれるものに対応することは、すでに推定されていましたが(「はやぶさ」の初期成果(サイエンス論文)参照)、小惑星イトカワはS型小惑星と呼ばれるグループに所属しており、小惑星帯の内側でもっと数の多いS型小惑星と地球上で最も多く発見されている普通コンドライトの反射スペクトルには、スペクトルの傾きが違う(S型小惑星は普通コンドライトより赤い)ことが知られており、この違いが長い間の謎とされてきました。

今回のデータ解析により、イトカワの表面で明るさの違う部分でスペクトルの傾きも異なっており、明るい部分(新鮮な表面)ほど青く、スペクトルの傾きについても普通コンドライト隕石に似ていることがわかりました。
このことは、イトカワをはじめとするS型小惑星は、本来普通コンドライトと同じスペクトルを持っていて、長い間宇宙空間にさらされることで日焼けしてスペクトルの傾きが変化していることを示すもので、長い間の謎を解決するための一つの証拠を発見したことになります。

なお、LL型コンドライト隕石は、隕石中で最も多い普通コンドライトと言われるH、L、LL型のグループの中では、最も少ないもので、その母天体がイトカワとして見つかったことから、他のHやL型の母天体も、イトカワのような近地球小惑星の中に多く存在することが期待されます。

備考:宇宙風化作用とは
太陽風や微小隕石の衝突の影響で表面物質の見た目(色や明るさ)が変化することを宇宙風化と呼んでいます。宇宙風化によって物質がどのように変化しているかについてはいくつかの説がありますが、最近の研究では、太陽風や微小隕石の衝突によって小惑星表面の鉱物(輝石やカンラン石)が蒸発して再凝結する際に、蒸発しなかった鉱物の表面にナノメートルスケールの微小鉄粒子が付着することによって、鉱物粒子の透過率を下げると同時に色を変化させる(赤くする)ことがおきているとことが指摘されています(この論文の主著者の廣井孝弘氏や、共著者の佐々木晶氏の研究によるものです)。

ネイチャーに掲載された論文の図の説明

図1:小惑星イトカワを、「はやぶさ」搭載の多色カメラAMICAで撮像したもの。同じく「はやぶさ」搭載の近赤外分光計(NIRS)の観測点の大きさとその動きを示してある。NIRSは、相模原の淵の暗い領域から、筑波の西の明るい領域までスキャンしている。

図2:NIRSデータ(反射スペクトルと呼ぶ)の明るさ(○)と赤さ(△)の相関を表す図。明るさは、波長0.76ミクロンでの反射率で定義され、赤さは、波長1.54ミクロンと0.76ミクロンでの反射率の比で定義される。暗いほど赤いことが分かる。これは宇宙風化の特徴である。明るく青い領域と、暗く赤い領域から2点ずつNIRSデータを取ってきて平均し、解析に用いる。黒色のデータ点は図3、図4の解析に使われた部分。

図3:明るく青い領域と、暗く赤い領域のNIRSスペクトルを隕石のデータと比較したもの(黒色)。点線で表した連続背景スペクトルを取り除くと、2つの領域のどちらも、隕石のスペクトルと相似形のスペクトルを示す(白抜き)。これは、このLLコンドライトと呼ばれる種類の隕石と、イトカワの構成物質が、非常に近い鉱物組成を持つことを示している。実際、LLコンドライト以外には隕石の中にはイトカワに似たものがないので、イトカワはLLコンドライトの母天体の1つと考えられる。

図4:図3と同じ2つの領域のNIRSスペクトルを、同じ隕石のスペクトルに、モデル計算(Hapke 2001)で微小鉄を加えてフィットしたもの。これを見ると、明るく青い領域よりも、暗く赤い領域の方が、体積にして約0.04%より多く微小鉄を含むことが分かる。これは、イトカワの表面上で、宇宙風化が進行しつつあることを示し、このような過程が見つかったのは初めてのことである。

2006年9月7日

ISASメールマガジン

最先端の宇宙科学に従事している研究者の、汗と涙と喜びに満ちた生の声をお届けするメールマガジンに、あなたも参加しませんか?詳しくはクリック!