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「はやぶさ」の位置制御に与える太陽輻射圧の影響

「はやぶさ」は20km付近(ゲートポジション)到着後から、その位置を制御してきました。この間、もっとも大きく位置制御に影響を与えているのは、太陽輻射圧です。つまり光の圧力(光圧)です。実は私たちは普段から光りの圧力を受けているのです。明るい壁からも、熱いストーブからも力を受けています。太陽輻射圧とは太陽から飛んでくる光子(Photon)が太陽電池パネルやアンテナなど探査機の表面に衝突して発生する力で、表面が黒く反射しないものよりも鏡のように反射する方が大きくなります。ヨットに例えると光子が風で、太陽電池パネルやアンテナが帆に相当します。この力はとても弱く大きさはだいたい電気推進の1/100ですが、ゲートポジションで受けるイトカワの重力に比べると10倍以上の大きさがあります。太陽、探査機、イトカワの位置関係は図1のようになっており、接近する方向への移動時にはガスジェットを使わずに太陽輻射圧で近づいていき、それ以外の方向には搭載している推進エンジン(ガスジェット)を噴いて位置を制御しています。その移動履歴を図2に示します。

図1 太陽、はやぶさ、イトカワの位置関係

図2 移動履歴

 太陽輻射圧で加速される量は1日でおよそ1cm/秒で、これは1日で約1kmの移動速度にあたります。「はやぶさ」はホームポジションでは高度を7kmくらいまで下げますから、この加速はとても大きくて、一生懸命流されるのを防ぐように制御を行わなくてはなりません。図3はイトカワまでの距離の履歴を示したものです。9月19日にイトカワから離れる方向に加速をしたあと、太陽輻射圧によって押し戻されることを計算して制御を行い、予定どおり9月26日に高度11kmに到達しました。まるで、地上での野球のボールの動きのように見えます。

図3 イトカワまでの距離履歴

  この放物運動をしている間に、正確な太陽輻射圧の計測も行いました。地球周辺でも太陽輻射圧ははたらいていますが、大気抵抗や月、太陽の重力などに比べると圧倒的に小さく、その加速度を直接計測することは困難です。しかしイトカワとランデブーしている「はやぶさ」にとってはこの計測が容易になります。なかなか真値をえられにくいパラメータでもあるので技術的な観点からも重要です。また「はやぶさ」計画では、小惑星イトカワの質量を推定するうえでも、これを正確に推定しておく必要があります。太陽輻射圧の計測例を図4に示します。

図4 太陽輻射圧の影響

これは「はやぶさ」のドップラー計測によってイトカワとの速度差(視線方向)を示したものです。イトカワも同様に太陽輻射圧を受けていますが、受ける面積や反射率に比べ質量が非常に大きいためほとんど加速が生じません。よって両者の速度差の変化は太陽輻射圧の影響の有無を示しています。速度差は直線的に広がっていることから一定の加速度が働いていることがわかります。この傾斜から求めた太陽輻射圧は、
1.261x10-10[km/s**2]= 1.25 [m/s/日]=4.5 [km/時/日]と推定されました。
太陽輻射圧は、理想的な反射面では、1000平方メートルあたりで1円玉1枚にはたらく重力に相当する力を出します。実際は反射は完全ではないので力は弱くなります。
 この「はやぶさ」計画ではイトカワへの接近に太陽輻射圧を利用しましたが、これをもっと積極的に利用して太陽系内を航行するようなソーラーセイルも研究されていて、実証実験も行われつつあります。JAXA では将来に向けてソーラーセイルに「はやぶさ」で実証された電気推進を組み合わせたハイブリッドの推進方式を採るソーラー電力セイルの研究も進めています。

2005年10月25日

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