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「はるか」の成果

・「はるか」は、世界で初めて、スペースVLBI観測を行う上で必要となる高精度大型展開アンテナ、柔軟構造物の姿勢制御、位相伝送及び広帯域伝送、軌道決定などの工学的な技術を実証しました。

・さらに、衛星と地上間で電波干渉実験に成功し、スペースVLBI観測の技術を確立しました。これにより、スペースVLBI観測ミッションとしての運用方法を確立し、衛星の定常運用と大規模な国際協力のもとにVSOP観測計画を実施しました。このために衛星追跡及び軌道決定などで協力するNASAとは、5年間の協力を行いました。

・観測面では「はるか」は、1997年の打上げから2003年まで延べ約750回余りの観測を行いました。観測は、公募観測とサーベイ観測に分けられており、公募観測については、5回の観測公募を行い、500回余の公募観測を行いました。

・VSOP観測では、活動銀河核のジェットなどの最高解像度の画像を得ることに成功し、いままでまっすぐに伸びていると考えられていたジェットの内部構造が、より複雑な構造であることが明らかにされました。また、活動銀河核のジェットの影を通して、活動銀河核の周りにあるプラズマ円盤の存在と状態を明らかにしました。さらに、サーベイ観測などにより、多くの高輝度温度天体を確認しました。

なお、VSOPの科学的成果のハイライトは、国立天文台スペースVLBI推進室によってさらに詳細な情報とともにまとめられております。

ジェットのうねり構造

クェーサー3C 273の電波ジェットと二重稜線構造。北東(図の左上)端が電波核で、南西(右下)方向にジェットを噴き出しています。左下のグラフはそれぞれ白破線 A, B, C, Dでスライスした場所での電波強度(輝度)の様子で、横軸はジェット右端からの距離になっています。3C 273は地球から約25億光年の距離にある銀河の中心核で、太陽の約10兆倍もの明るさで輝いているクェーサーです。VSOPの高分解能でジェットの内部構造を詳細に調べた結果、ジェットの明るい部分(輝度の稜線)をたどっていくと、中心軸(黒い破線)にからみつくような二重らせん状(図の赤線、青線) の構造が発見されました。これはジェットの中で二つの異なる速度を持つプラズマの流れが複雑に絡み合った結果(ケルビン-ヘルムホルツ不安定性)で生じたと考えられています。

(Lobanov, A. P., Zensus, J. A. 2001, Science 294, 128)

ジェットのうねり構造

クェーサー1928+738の4年間にわたるモニター観測で得られた、電波ジェットがうねりながら変化していく様子です。一番左は1997年8月、「はるか」が打ち上げられて半年後に観測した時のジェットの様子、そして一番右は2001年9月に観測した時のジェットの様子です。

ジェットが波打ちながら流れていく「うねり」構造は、3C 273のようなジェット内の不安定性だけでなく、ジェットの根元が揺れることによって起こるとも解釈されています。ホースで水まきするときのように、ジェットの明るい部分がまっすぐに飛んでいたとしても噴き出す根元の向きが変化すると、うねったジェットのような形になります。これを検証するには、一つの天体を長い期間にわたって観測し、ジェットの明るい部分がどのような運動をするのかを調べればよいのです。クェーサー1928+738を4年間にわたって7回観測した結果、ジェットの明るい部分が弾道的に運動していることが確かめられました。このクェーサーで見られるようなジェットの根元の向きが変化する原因は、活動銀河核中心部の2つの超巨大な天体(ブラックホール)が互いに軌道運動を行い、そのうちの一方からジェットが出ているためだと考えられます。

(Murphy, D. et al. 2003, NewAR 47, 633)

筒状になったジェット

電波銀河M87のジェット噴き出し部。南東(左)の端が電波核で、北西(右)方向にジェットを噴いています。活動銀河において中心のブラックホール近傍でジェットが細く絞られ光速近くまで加速されるしくみは、観測的にはまだ明らかになっていません。ジェットが生成・加速される領域はシュバルツシルト半径の10倍程度の領域で、 それを解像するだけの望遠鏡はまだ実現されていないためです。しかし、距離が約5000万光年と比較的近くにある電波銀河M87をVSOPで観測すると、シュバルツシルト半径の40倍の空間分解能が得られ、ジェットの根元の構造を調べることができます。その結果、電波核付近では開口角60°のジェットが細く絞り込まれ、ジェットの下流では外側が明るい二重稜線構造を持つことが明らかになりました。これは、ジェットが中空円筒状になっていることを示しています。

(画像提供:Mark J. Reid)

活動銀河核をとりまくプラズマ円盤

(左)電波銀河NGC 4261の電波像 (南北に延びるジェット) と可視光像 (中心部分の楕円銀河)。どちらも、地上の観測装置によって得られた画像。(中)NASAのハッブル宇宙望遠鏡によるこの銀河の中心部分の様子。密集する恒星の光(黄色)を円盤状の塵(ちり)が隠し「影絵」を作っています。塵円盤の中心からは、中心核とジェットの光が北側に漏れ出しています。(右)VSOPによる最高解像度の電波写真。中心の明るい部分の南(下)側にくびれた部分があり、プラズマ円盤がジェットを隠しています。

活動銀河核のエネルギー発生源は、中心のブラックホールへの落ち込むガスが元になっていると考えられています。強い電波を出すジェットの手前に低温・高密度のプラズマ(電離したガス)が存在し、自由−自由吸収によってジェットを隠します。このプラズマこそ降着物質と考えられています。

電波銀河NGC 4261は中心から南北双方向にジェットを噴き出しています。VSOPでその根元を観測した結果、南側のジェットの根元が吸収によってくびれており、ジェットに垂直な円盤状のプラズマがジェットを隠している部分をとらえていると考えられます。

(Jones, D. L. et al. 2001, ApJ 553, 968)

高輝度天体とVSOPサーベイ

クェーサー1921-293の電波像。最も明るく輝く電波核がVSOPによって詳しく調べられ、輝度温度で10兆度を超える電波放射をしていることが判明しました。この観測結果はVSOPの達成した空間分解能によってこそはじめてなし得た成果です。

VSOPサーベイでは、このクェーサーのように非常に明るい活動銀河核の輝度温度の統計を調べています。活動銀河のジェットは高エネルギー電子からのシンクロトロン放射によって輝度の高い電波で輝いていると考えられていますが、あまりに輝度が高くなると逆コンプトン効果によって、輝度温度が 1兆度を越えることはできません。ところがVSOPサーベイの結果、54%ものサンプルが1兆度を超える輝度温度を示すことがわかりました。このことは、相対論的ビーミング効果によって、実際の輝度温度よりも見かけの輝度温度が高くなっていることを示しています。光速に近い速度でジェットが運動していると、放射される電波は運動方向に強く絞り込まれます。運動方向が観測者の方向に向いていると、見かけの輝度は増幅されてみえるのです。

(画像提供: Philip G. Edwards; Hirabayashi, H. et al. 2000, PASJ 52, 955; Lovell, J. E. J. et al. 2004, ApJS 155, 27; Scott, W. K. et al. 2004, ApJS 155, 33; Horiuchi, S. et al. 2004, ApJ 616, 110)

2005年10月21日

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