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「はやぶさ」の静止について(詳報)

図1は、JAXA 臼田深宇宙局にて取得されたドプラーデータで、イトカワと「はやぶさ」探査機の距離変化率の差を表したものです。途中でプロット点が一段階落ちてゼロに到達していることがわかります。これが探査機が搭載している化学推進器を噴射して減速を行い、イトカワとの相対速度をゼロにしたことを示しています。図において値が正であることは、イトカワへ接近していることを示していて、イトカワとはやぶさの相対速度の往復分である2倍の数値が表示されています。縦軸の単位は、km/秒です。横軸は臼田局で受信した時刻を世界時で表示していて、探査機上での世界時1時に実施された結果が、臼田局では1時17分頃に取得されたことを示しています。減速噴射の実施後のイトカワとの相対速度は、約0.25mm/秒となったことが確認されました。

図1 静止化軌道修正における距離変化率変化(往復分の2倍が測定される)

図2は、イトカワを原点にして、「はやぶさ」の地球方向からの角度誤差(2方向)を時々刻々示したものです。イトカワが球形で、「はやぶさ」が完全に地球方向に静止していれば、この角度はゼロで一定になります。臼田局からの視線方向に垂直な方向の速度は、上のドプラー情報では観測できませんが、この光学情報によって観測することができます。この情報は、探査機の姿勢と光学航法カメラによるイトカワの照度中心位置を組み合わせて機上で得ることができます。イトカワの形状は対称ではないため、照度の中心が自転とともに動く効果も含めて検出されます。静止させた時点での「はやぶさ」とイトカワ間の距離は約20km なので、照度中心の変化も含めていえば、「はやぶさ」は、地球方向に垂直方向に約1cm/秒ほどの運動を残していることになります。

図2 航法カメラによる機上画像処理結果。静止化の軌道操作後の地球方向からの角度ずれ

図3は、静止化の噴射後、約1時間半後に取得したレーザ高度計の計測結果を示したものです。「はやぶさ」はイトカワに対してほとんど静止していますが、イトカワが自転しているので、高度計測値は地形にしたがって変動しています。イトカワからの静止距離20kmは、地上観測で得られていたイトカワの軌道要素に基づいて設定されましたが、実際には軌道要素には誤差があり、判読が難しいですが、イトカワの大きさを考慮すると、平均的な高度はおよそ20km に維持されていることがうかがえます。

図3 静止化の軌道操作後の、レーザ高度計履歴 姿勢変化によるレーザビーム位置の変動分を含む

イトカワの引力圏にとどまるかどうかが静止の条件になると考えられます。イトカワは非常に小さい天体なので、その引力圏からの脱出速度も非常に小さくなります。イトカワの質量は未知で、またこれを推定することが科学的にも非常に価値のある課題となっていますが、おおまかな質量の推測を行うことは可能であり、それによれば、イトカワから距離が20km の位置での脱出速度は、数cm/秒と計算されます。9月12日に実施した静止化の結果、「はやぶさ」のイトカワに対する相対速度は、この脱出速度に比べて十分に小さく、その時点では、「はやぶさ」はイトカワを再び脱出しない条件を満たしたことがわかります。

イトカワから20kmの距離においては、かりに 1cm/秒の残留速度が地球方向に直交する方向に存在すると、「はやぶさ」からイトカワに向かう方向が1日に3度変化してしまいます。狭視野カメラの視野角は +/-3度なので、光学観測を継続するためには、おおまかにいえば、1日に1回軌道操作を行わなくてはなりません。この軌道修正は、「はやぶさ」では、自動的に行われるように設計されおり、静止完了後数日ののちに、この制御方式に移行することを予定しています。

2005年9月13日

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