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トピックス

宇宙科学研究本部の三陸大気球実験、6つの観測と実験を行い終了
(2004年度第2次大気球実験報告)

宇宙科学研究本部 三陸大気球実験班

1号機(2004.8.25〜26)
成層圏で微生物を採集と高空における中性子測定/B15-84号機

 平成16年8月25日(水)7時30分に平成16年度第2次気球実験の1号機として、B15-84号機を三陸大気球観測所より放球しました。この気球の容積は1万5000立方メートルであり、平均速度280m/分で正常に上昇しました。その後、排気弁を操作して高度4〜6?の範囲を上昇速度0.5m/秒で上昇させ、中性子の精密測定を行いました。さらに、バラスト投下と排気弁操作により、高度約20?で水平浮遊状態にして、微生物の採集を開始しました。
 翌朝日の出とともにバラストを投下して再上昇させた後に、高度約25?で気球は西方に進行し、唐桑半島沖合15?に達した26日17時7分に指令電波を送信し、観測器を気球から切り離しました。観測器は、唐桑半島東方約50kmの海上(東経142度12分、北緯38度44分)にパラシュートで緩降下しました。観測器および気球は回収船によって無事回収されました。

 本実験では、成層圏にどの様な微生物がいるのかという事を探索するために行われました。成層圏で約24時間大気をポンプで吸引して、特殊な微生物用フィルターで濾過しました。装置を回収後、フィルターを取り外して培養を開始しました。微生物が採集されているかどうかは1〜2週間程度で判明し、その後どの様な微生物が採集されたかの分析を半年ほどかけて行う予定です。紫外線に非常に強い耐性を示す菌が採集されていることが期待されています。
 また、高空における中性子測定が行われました。環境における中性子線量の分布を明確にするため、地上から高度25?までの中性子線量率を測定しました。中性子線量率は、高度20?付近で最大となり、高度25?では若干下降する傾向が確認されました。中性子レベルおよび高度分布はこれまでの知見(高緯度地域で観測されたデータが主になっている)とは異なっており、有意義なデータが得られました。今後、テレメータデータを基に詳細な解析を行う予定です。

  放球時の地上気象状況は、天候:晴れ、風速:2m/秒、気温:20℃でした。

2号機(2004.8.28)
展開型柔構造をもつ大気突入飛行体の自由飛行実験/B100-10号機

 平成16年8月28日(土)6時31分に平成16年度第2次気球実験の2号機として、B100-10号機を三陸大気球観測所より放球しました。この気球の容積は10万立方メートルであり、平均速度270m/分で正常に上昇しました。高度約14?で排気弁を操作して上昇速度を0.5m/秒としました。
 その後、東方200?に到達した時点で、バラストを投下して再上昇させ、放球4時間後に高度39.3?で水平浮遊状態に入りました。そして、10時40分に柔構造機体を分離しました。その後、気球は西方に進行し、仙台湾上空に達した12時40分に指令電波を送信し、観測器を気球から切り離しました。観測器は、東経141度26分、北緯38度02分にパラシュートで緩降下しました。観測器および気球は回収船によって無事回収されました。

 本実験は、将来の惑星探査等で有用となる、展開型柔構造により低弾道係数化した大気突入飛行体の、開発の前段階として、同等の構造を有する飛行体の自由飛行特性を把握することを目的として行われました。飛行は高度40kmからの自由落下飛行で、到達マッハ数、動圧はそれぞれ0.9、0.8KPsで計画しました。特に動圧は大気突入時とほぼ同じものです。飛行中は、機体の映像データ以外にも、位置、加速度、動圧、姿勢などの飛行データも合わせて取得を計画しました。
 飛行はほぼ予定どおりに行われ、映像データなど、ぽぽ全てのデータを取得することに成功しました。特に、映像データでは海面着水までの飛行中の機体の健全性を確認することが出来ました。本実験で用いられたような展開型柔構造を持っ飛行体の自由飛行は、公表されたものとしては世界初のもので、特に、柔構造の飛行中の挙動の映像データは、貴重なものです。詳細なデータの解析はこれから行う予定ですが、この実験により、大気突入する機体の開発に向けての1ステップを踏み出したことになり、将来の惑星探査等に応用される機体開発の進展が期待されます。

 放球時の地上気象状況は、天候:曇り、風速:1.5m/秒、気温摂氏19度でした。

3号機(2004.9.4)
地上から高度50?の広い高度領域でオゾンの精密観測/BU30-4号機

 平成16年9月4日(土)9時00分に平成16年度第2次気球実験の3号機として、BU30-4号機を三陸大気球観測所より放球しました。この気球は毎分330メートルの速度で正常に上昇しました。放球2時間30分後に、高度49.8?に到達したところで満膨張となりました。その後、指令電波を送信し気球頭部破壊機構を動作させ、気球を完全に破壊しました。気球および観測器は、東経142度43分、北緯39度53分の海上にパラシュートで緩降下しました。観測器および気球は回収船によって回収されました。

 今回の観測では、大気重力波とそのオゾン混合過程を調べるため、2種類のオゾン観測器を用いて、温度、風、オゾンの精密観測を行いました。大気重力波は大気中に存在する波動で、下層大気から運動量を上向きに運び、大規模な大気循環を引き起こす役割を持ちます。天気予報や気候予測の精度向上にはその効果を考慮する必要があります。  また、最近では大気重力波によるオゾン混合効果も注目されています。大気重力波はスケールが小さいため、その研究には気球による精密観測が欠かせません。ところが、気象庁等での観測に使われるゴム気球は高度約30?までしか到達できないため、対流圏(高さ0〜12km位。高さとともに温度が下降)、および成層圏(高さ約12〜50?。高さとともに温度が上昇)の下部の研究は進んでいるものの、上部成層圏は未知の領域でした。
今回の高高度気球は成層圏トップを超え、温度が高さとともに下がり始める中間圏下部に到達しました。これによって、地上から高度50?の広い高度領域を、大気重力波の解析をするに十分な分解能である5m毎に約1万点、良好なデータを取得することに成功しました。

 放球時の地上気象状況は、天候:曇り、風速:0.5m/秒、気温:21℃でした。

4号機(2004.9.5)
光学オゾンゾンデを用いた成層圏オゾン高度分布の観測/BU5

 平成16年9月5日(土)8時50分に平成16年度第2次気球実験の4号機として、BU30-3号機を三陸大気球観測所より放球しました。この気球は毎分265メートルの速度で正常に上昇しました。放球2時間40分後に、高度425?に到達したところで水平浮遊状態に入りました。そして、20分後に、指令電波を送信し気球頭部破壊機構を動作させ、気球を完全に破壊しました。気球および観測器は、東経142度43分、北緯39度53分の海上にパラシュートで緩降下しました。なお、成層圏上部の風が飛翔に適さないため、当初予定していたBU30型気球からBU5型気球に変更して実験を行いました。

 本実験は光学オゾンゾンデを用いた成層圏オゾン高度分布の観測を目的として行われました。光学オゾンゾンデは通常のオゾンゾンデでは精度よく観測のできない高度30?以上のオゾンを高精度に観測するために開発した観測器で、紫外線がオゾンによって吸収されることを利用し、気球上昇中の紫外線量の変化から成層圏中のオゾン濃度高度分布を測定する観測器です。
 これまで11年間にわたる光学オゾンゾンデによる観測から上部成層圏におけるオゾンの太陽活動度変動に伴う経年変化が見られており、また、同時に風速等を高精度に測定することにより、オゾン濃度高度分布に見られる波状構造と大気波動との関係を詳しく調べることができるものと期待されています。
 今年度は超薄型気球を用いることにより高度42.5?までのオゾンの直接観測に成功しました。このような上部成層圏を直接観測できる測器は他になく、非常に貴重で興味深いデータを得ることができました。

  放球時の地上気象状況は、天候:曇り、風速:0.5m/秒、気温:21℃でした。

5号機(2004.9.6)
温室効果気体の採取/B100-11号機

 平成16年9月6日(月)6時44分に平成16年度第2次気球実験の5号機として、成層圏大気のサンプリングを目的としたB100-11号機を三陸大気球観測所より放球しました。この気球の容積は10万立方メートルであり、毎分330メートルの速度で正常に上昇しました。高度約14?より排気弁とバラスト弁を操作して、上昇速度を毎秒1〜3メートルの範囲で変化させ、大気のサンプリングを行いました。そして、放球4時間後に高度35.5?で水平浮遊状態に入りました。その後、排気弁を操作して徐々に高度を下げながら大気のサンプリングを継続しました。気球が船越湾上空に達した13時23分に指令電波を送信し、観測器を気球から切り離しました。観測器は、東経141度14分、北緯39度31分にパラシュートで緩降下しました。観測器および気球は回収船によって無事回収されました。

 本実験は、温室効果気体(二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、クロロフルオロ、カーボンなど)や酸素などの濃度および同位体比の成層圏における鉛直分布とその経年変化を調べ、地球規模の温室効果気体の収支の定量化を計り、成層圏の物質輸送や化学反応過程を明らかにすることを目的として行われました。
 液体ヘリウムを用いたクライオジェニックサンプラーにより、高度15?から35?において、気球の上昇中および降下中に成層圏大気試料を11本の容器に固化させて採取することに成功しました。得られた試料は本実験に参加している複数の大学、研究所において精密な分析が行われる予定です。
 一部の分析項目については15年余りにわたって経年変化が調べられており、特に今年は昨年12月および今年1月に南極昭和基地で行われた実験と比較する上でも重要なデータが得られることが期待されています。

 放球時の地上気象状況は、天候:曇り、風速:0.5m/秒、気温:19℃でした。

6号機(2004.9.7)
成層圏中のオゾンやオゾン層破壊関連分子(HCI)のサブミリ波帯における観測/B100-12号機

 平成16年9月7日(火)6時30分に平成16年度第2次気球実験の6号機として、成層圏中のオゾン及びオゾン層破壊関連分子(HCI)のサブミリ波帯における観測を目的とした、B100-12号機を三陸大気球観測所より放球しました。この気球の容積は10万立方メートルであり、毎分260メートルの速度で正常に上昇しました。その後、排気弁とバラスト弁の操作により、気球は東方に進み、放球3時間15分後に高度35.2?で水平浮遊状態に入りました。その後、気球は西方に進み、吉浜湾東方10?に達した18時45分に指令電波を送信し、観測器を気球から切り離しました。観測器は、東経142度14分、北緯39度21分にパラシュートで緩降下しました。観測器は回収船によって無事回収されました。

 この実験は、成層圏中のオゾンやオゾン層破壊に関連する分子(HC1)から放射されるサブミリ波帯の電波を、液体ヘリウムによって4Kに冷却した超伝導受信機により受信し、これら大気中微量成分の高度分布を求め、オゾン層破壊メカニズムの解明や将来予測に役立てることを目的としたものです。また、この実験にはサブミリ波帯という未開拓の周波数領域のシステム開発という目的もあります。
  システムは全て正常に動作し、水平浮遊高度に到達後、液体ヘリウムがなくなるまでの間、オゾンとHClの電波スペクトルのデータ取得に成功しました。
 今回、共同研究として、極地所にはBSMILESに合わせたECCオゾンゾンデの放球、及びECC・光学式オゾンゾンデデータの提供、東北大からは光学式オゾンゾンデのデータの提供を受けることができました。これらのデータと比較することで、データの精度をより高めることが出来ると期待されます。
  さらに今回の結果は、将来の宇宙ステーション搭載機器の開発や、データ処理アルゴリズム開発にも役立てられることも期待されます。

  放球時の地上気象状況は、天候:曇り、風速:0.5m/秒、気温:摂氏21度でした。

2004年9月13日

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