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火星探査機“のぞみ”の現状について

先日、一部の報道において、「日本の火星探査機“のぞみ”が火星に衝突する」という記事が掲載されました。この記述は、正確ではありません。正確に述べれば、“のぞみ”は、このまま行くと、12月14日に火星に最接近し、その表面から894kmを通過します。軌道決定誤差を考えると、1%くらいの確率で衝突の可能性を排除しきれない、ということです。

世界最大の宇宙科学の学会であるCOSPAR(宇宙空間研究連絡会議)という組織では、特別の措置(滅菌など)を施していない火星周回衛星については、打上げ後20年以内に火星に落ちる確率を1%以下に抑えるという基準を“Planetary  Protection”として定めています。一方、観測から言えば、できるだけ近づいた方が良いわけで、今回の“のぞみ”の最接近距離894kmは、軌道計画としてはぎりぎり最適のものになっているのです。

ただし、“のぞみ”は、現在、不具合を復旧するために、懸命に「最後の挑戦」を続けています。その結果が出るまでは、その作業に専念するのが、“のぞみ” グループの科学者・技術者たちの、まず行うべきことと考えます。故障箇所の回復ができた場合は、周回軌道投入作業に入り、予定した観測を続けます。もし残念ながら回復できなかった場合には、最接近距離を894kmよりも少しでも遠ざけるための軌道修正を行うつもりでいます。この場合、“のぞみ”は、いったん火星に接近した後、再び火星の重力圏を脱出して永久に太陽を中心とした軌道をめぐる人工惑星になります。ご存知の方も多いと思いますが、“のぞみ”には、打上げ前に行った「あなたの名前を火星へ」というキャンペーンに応募された27万人の人々の名前を焼き付けたアルミ板が搭載されています。27万人の方々の名前は、太陽のまわりを数億年にわたって回りつづけることになります。

回復をめざして“のぞみ”グループが努力をつづけておりますので、それをいましばらく(12月10日前後まで)見守っていただきたいと思います。決着がつきましたら、丁寧にその結果と私たちの思いをお伝えするつもりです。自らの願いを託された方々をはじめとして国民の皆様のご期待に応えるため、現場の人間にできることは、最後まであきらめないで全力を尽くすことだと信じています。

2003年11月20日

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