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「のぞみ」スウィングバイとその基本原理

火星探査機「のぞみ」は、去る6月19日に11,000kmの距離まで地球に接近し、地球スウィングバイを行った。 「のぞみ」の新軌道(図1)の「第2回スウィングバイ」までが達成されたこととなる。この結果、本年12月半ばに火星に到着する軌道に「のぞみ」をのせることに成功した。

 図1 「のぞみ」の新軌道計画

図1

ボイジャーやガリレオなど、太陽系を探査する人工衛星で頻繁に使われるこのスウィングバイという技術、「一体何?」と思われる読者向けに解説することが本稿の目的である。私自身が軌道設計については素人であるが、それを逆手にとって、なるべくわかり易い解説を試みたい。

普通、探査機の進行方向や速さを変えるためには、探査機に搭載している多くの推進剤を必要とする。スウィングバイとは、地球などの天体の引力を利用することにより、推進剤を消費することなく、軌道を大きく変更する技術である。天体から受ける引力は、その天体の質量に比例し、距離の二乗に反比例する。太陽系内の惑星間空間を航行する飛翔体は、太陽系の中で一番、しかも桁外れに大きい天体である太陽の引力影響下にある。しかし惑星や衛星のごく近傍へ近寄ると、その天体の引力が支配的となる。飛翔体が天体の近くを真っ直ぐに通り過ぎようとしても、天体のほうに引き寄せられる力がはたらくために軌道が曲がるのである。この時、引力がはたらく領域の中で飛翔体が描く軌道は天体を中心とする双曲線となる(図2a)。また、天体に対する相対的な速さは、引力圏に進入する時と脱出する時で等しいが、天体が太陽の周りを公転しているために、絶対的な座標系で見た飛翔体の速さは変化する。天体の公転方向に対して飛翔体が後方を通過した場合には加速(図2b)、前方を通過した場合には減速(図2c)が起こる。

図2

図2

スウィングバイを行なう際には、事前に精密な軌道制御を必要とする。今回の「のぞみ」のスウィングバイに際しても、その前にレンジングやVLBIを優先した運用を行って衛星の位置を精密に決め、軌道の修正を行なっている。スウィングバイ後、約1週間かけて実施した軌道決定作業の結果、予定通りの軌道に正確に乗ったことが確認された。

2003年10月1日

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