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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第466号

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ISASメールマガジン   第466号       【 発行日− 13.08.27 】
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★こんにちは、山本です。

 いよいよ今日は、イプシロンロケット試験機によるSPRINT-Aの打上げ当日です。
週明けの相模原キャンパスではパブリックビューイングの準備で大わらわです。

 パブリックビューイングへ出かけられない人たちは、イプシロンロケット特設サイト内の打上げライブ中継をちゃんと見ることが出来るでしょうか?

【アクセスが集中してフリーズ】なんてことが起きませんように

 今週は、太陽系科学研究系の阿部琢美(あべ・たくみ)さんです。
イプシロンロケット打上げの前に、観測ロケット実験の話をお楽しみください。

── INDEX──────────────────────────────
★01:ロケット2機の連続打上げ
☆02:イプシロンロケット試験機の打上げパブリックビューイング
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★01:ロケット2機の連続打上げ

 ロケット2機の連続打上げ、って何だろうと思われた方が多いと思います。
日本でロケットと言えばH2AやH2Bが有名ですね。H2Bの4号機はつい先日の8月4日に打ち上げられました。

また、今月下旬には新型のイプシロンロケットが惑星分光観測衛星を載せて打ち上げられることになっており、新聞やテレビでも大きく取り上げられています。


 イプシロンロケットやH2Aロケットは地球を周る軌道に人工衛星を投入したり、ISSと結合する補給機を打ち上げたりするわけですが、人工衛星は搭載せずにロケット飛翔中の短時間の観測を目的として打ち上げられるものを観測ロケットと呼んでいます。


 せっかく作った観測器が短時間で落っこちてくるなんて、もったいないなあと思われる方がいるかもしれません。

でも、人工衛星は飛ぶ高度が限られており、通常は高度約250km以上です。これ以下の高度では大気抵抗が大きく徐々に高度が下がってしまうために長期間飛び続けることができないのです。

いっぽうで高層大気を観測するために気球が用いられることがありますが、現在は最高の到達高度は約55km位です。

こうした理由から、高度55km〜250kmの空間は、その場に行っての観測手段がほとんど無いのですが、それを可能にするのが観測ロケットです。


 この空間は電離圏下部とか、熱圏下部とか、超高層大気とか、様々な名前で呼ばれることがありますが、これらの名称は大気が電離しているとか、温度が高くて熱いとか、この空間の特徴をそれぞれ表しています。

この領域には解明されていない不思議な現象が多数存在しているのですが、その理由は長時間の継続した観測が困難なことの他に、この空間には普通の大気の他に電離した大気であるプラズマが混在しているからでもあります。


 例えば、オーロラは中性の大気にエネルギーの高いプラズマがぶつかって起こる現象です。だから、両方が存在できる超高層大気領域でしかオーロラは発生しません。そんな領域に様々な興味深い現象が存在していることが発見されてきました。

そのひとつが電離圏擾乱と呼ばれ、電子密度の粗密が周期的に表れる現象です。電離圏中の高度150〜500kmのF領域と呼ばれる空間には波長数百kmで水平方向に移動する擾乱が発生する場合のあることが知られています。

また、電離圏E領域の高度100km付近には別の種類の擾乱が存在することが報告されています。電離圏中には中性大気とプラズマが共存していることが、これらの擾乱を生み出すための大事な要素なのです。


 前置きが長くなりましたが、このような電離圏中の電子密度擾乱現象がどのように発生するのか、を解明することを目的として2機の観測ロケットを打ち上げる実験が7月20日に行われました。


 2機のロケットを打ち上げると言っても、モーターに点火すれば良いだけの話ではなく、データの受信をするためにはテレメータアンテナでロケットを追尾しなくてはいけないし、位置を決定するためにはレーダーで追いかけなくてはならないし、地上ではロケットの飛翔中に緊張の中で様々な作業が行われます。

1機目が海上に着水すれば、それらの作業は終了しますが、データをハードディスクに保存したり、2機目の打上げに向けた準備作業をしたりしなくてはいけません。実験班員は2機分の準備を相当なプレッシャーの中で行ったことと想像します。


 事前には30分程度の間隔で2機連続の打上げが可能と予想しておりましたが、観測側の要望で間隔は50分程度にすることとなりました。しかし、1機目終了の後に刻々と迫る2機目の打上げをひかえ、実験班の各人は緊張した時間を過ごしたことでしょう。


 今回はS-310型とS-520型の2機のロケットを打ち上げたのですが、打上げ方向に向けるためにはランチャーと呼ばれる発射台が必要で、これはそれぞれ専用のものがあったために連続打上げの事態でも事なきを得ました。

それらのランチャーの配置については諸説あったのですが、最終的にはランチャードームと呼ばれる建物をはさんで南側にS-310型、北側にS-520型としました。2つのロケットがそれぞれのランチャーにセットされた光景は普段見られないために、打上げ前日の機体公開日には報道関係者は勿論のこと、実験関係者でもシャッターにおさめようとする方が大勢いたようです。


 ひとつの実験に2つのロケットとは随分贅沢な、と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、今回の実験では高くまで飛べるS-520型ロケットで電離圏F層と呼ばれる高度300kmまでの観測を、より小型のS-310型ロケットでは電離圏E層である高度150kmまでの観測を、という役割分担がありました。

単純に、S-520型ロケットでE層とF層の両方をカバーという方法もありそうに思えますが、このロケット1機に全ての観測機器搭載は困難なこと、一部の機器が他の機器に干渉を与えると予想されるために別々のロケットに搭載したいこと、またS-520型ロケットはE層通過高度が速くて観測に不利等の理由で2つのロケットを使用することにしました。

過去にS-310型ロケット2機を短時間に打ち上げたことはありますが、S-520型を含む2機は初めてです。このため、今回の実験は日本の観測ロケット実験としては最大規模ということが出来ます。


 フライトオペレーションと呼ばれる打上げ準備作業は7月8日から始められましたが、ロケット2機分にもかかわらず作業日数は2倍にはなっていません。これは実験班員による作業工程の見直しや工夫によるものだと思っています。


 準備作業は問題なく進み、打上げ予定日の7月20日を迎えました。

1機目の打上げは午後11時00分を予定していたので作業開始は午後6時半。直前作業は順調に進み、電離圏擾乱の発生の確認と天候および観測準備の条件が確認できたことから、打上げGOの判断がなされました。

午後11時00分に予定通りS-310型ロケットの打上げが行われ、観測データ取得は全て正常、7分後にロケットが着水して1機目の実験は終了しました。

実験班員は事後処理をした後、2機目の打上げに向けての準備を開始しました。そして、11時57分に2機目のS-520型ロケットの打上げを実施。こちらも順調に観測データを取得し、約10分後にロケットは海上に落下しました。


 観測ロケット実験の長所のひとつは、目的達成に向けて具体化した観測手段や運用方法を、比較的短期間で実現できることにあります。今回の実験も低高度と高高度に発生する電子密度擾乱の関連性を調べ、電磁気的な結合のメカニズムを解明する、という目的に合わせて綿密に計画されたものです。

今後もこのような斬新なアイデアをどしどし取り入れて、魅力的な観測ロケット実験を推進していきたいと思っています。


 今回はロケット2機を使用した意義、打上げに至るまでの経緯を中心に説明を行いましたが、観測結果がまとまってきた段階で今回の実験の中で行われたリチウム放出&発光観測、およびプローブ等により取得された観測データの意義について紹介したいと思っています。

(阿部琢美、あべ・たくみ)

観測ロケット実験のページ
http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2013/0720_s-310-42.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※