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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第463号

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ISASメールマガジン   第463号       【 発行日− 13.08.06 】
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★こんにちは、山本です。

 相模原に真夏が戻ってきました。
強い日差しをアスファルトの地面が反射して窓越しの景色が白っぽく見えます。

今週は『きみっしょん』が開催されています。
隣の会場からは、いつもと違う「若者」の声が聞こえてきます。


 ある日メルマガ読者の方からメールが来ました。
「登録したのにメルマガが来ないのですが……」

早速メールアドレスを調べて返事をしました。
『お尋ねのメールアドレスは配信エラーが3回になり削除されています』

すると、メールサーバーから
『Undelivered Mail Returned to Sender』
『Unknown user』
というメッセージが返ってきました。

どうもメルマガのアドレスが「受信拒否」設定になっているようです。
これでは メルマガも返事のメールも、当人には届きません。
(アドレスを登録したのに「受信拒否」とは……)

『返事しているのに、返事が届かない』ジレンマ状態です。
せめてメルマガに書いて、バックナンバーを読んで気づいてもらうくらいしか思いつきません。

*携帯アドレスの場合は、【指定受信】に @isas.jaxa.jp の設定を!
*PCアドレスの場合は、メールソフトで mail-magazine@isas.jaxa.jp をホワイトリストに加えてください。


 今週は、宇宙機応用工学研究系の冨木淳史(とみき・あつし)さんです。

**お知らせ**
相模原キャンパスの見学を予定している皆さん!

グッズや食べ物を販売している 宇宙研生協(売店)は、下記の期間中、夏期短縮営業となります。(注意:土曜・日曜は営業していません)

【期  間】8月5日(月)〜16日(金)
【営業時間】11:00〜15:00

── INDEX──────────────────────────────
★01:次期赤外天文衛星「SPICA」の電磁環境両立性(EMC)
☆02:ライブ放送『きみっしょん』成果報告会 USTREAM kimission TV
☆03:『星に願う2日間』伝統的七夕ライトダウン2013キャンペーン
☆04:JAXAプロジェクトマネージャアンケート「私たちのミッション2013」
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★01:次期赤外天文衛星「SPICA」の電磁環境両立性(EMC)


 遙か遠くの宇宙からやってくる、様々な波長の電磁波(電波)を観測する宇宙望遠鏡を宇宙研では開発しています。波長・エネルギー(電子ボルト)に応じて各種望遠鏡がありますが、今日は次期赤外天文衛星「SPICA」の、特に電磁環境両立性(EMC)についてお話ししたいと思います。


 私たちの周りには日常生活に不可欠な電子機器があふれています。TVや携帯電話はもっとも身近な通信機器として電波を使い、情報のやりとりをしています。

人は電波を発見してから、装置の中で電波を作り出してラジオやTV放送、GPSのようなナビゲーションなどに使用してきました。しかし電波は人が作るだけではなく、自然現象や天体の活動によっても作り出され、宇宙全体に満たされており、今日では様々な科学観測が行われています。


 そして電子機器の内部にある集積回路やスイッチング電源は不要な電波も同時に機器の中で作り出しています。

一般的に電磁波は電荷の運動が不連続な場所から空間に放射されます。集積回路の内部で情報のやりとりのために使用される0、1に対応する電圧が時間変化することで、回路に接続された電線から電波の放射が起こります。

身近な例としてAMのラジオをコンピュータに近づけると、雑音が増えて放送の音声が聞こえづらくなります。このような現象を干渉といいます。これはコンピュータから発せられる不要な電磁波をラジオが受信しているからです。

こうした干渉は不要な電波が外に漏れないようにシールドしたり、電波の大きさが下がるように適切に設計されて、管理されないと、電波を扱う通信機器が干渉によって正しく使用出来なくなってしまいます。

このような事態を避けるために、意図的に発射する電波は電波法によって管理され、一方で不要な電磁波の大きさは、国際的な規格によって制限されています。こうした不要な電磁波にさらされても、双方の電子機器が正しく使用できる状況を電磁環境両立性と呼びます。


 飛行機に乗る人はご存じかもしれませんが、離着陸の際に、すべての電子機器を電源を切って下さいというアナウンスが入るのは、キャビン内の電子機器から発せられる不要電波が航空機の通信機器や航法機器に干渉し誤動作すること警戒しているのです。


 このような干渉の問題は、宇宙機の中でも起こります。宇宙の遙か遠くからやってくる微弱な電磁波を観測するために、望遠鏡に搭載されるイメージセンサーは極低温まで冷却されて背景の熱雑音の影響を避け、高い感度を持っています。

特に「SPICA」は国際共同ミッションで特に極めて感度の高い、SAFARIというヨーロッパの観測装置を搭載します。

このセンサーは赤外線を電波吸収体に吸収させ、その温度変化に相当する電流の変化を超伝導を利用した電流センサによって読み出します。そして、読み出した信号をマルチキャリアの振幅変調によってバス部*に伝送します。

このような電磁波を熱に変換するイメージセンサーは、衛星バス部の通信機で使用する通信周波数帯域まで感度を持っており、さらに低周波や静磁界に対する要求があります。

*【衛星バス部:参考 ISASメールマガジン188号
 ⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/mailmaga/backnumber/2008/back188.shtml


 これまでの赤外線天文衛星は、搭載センサーを望遠鏡ごとヘリウムデュワーに格納しており、外部からの雑音に対して良好なシールドとなっていました。「SPICA」では大口径の望遠鏡を実現するために、このヘリウムのデュワーを廃して大幅に軽量化し、機械式冷凍機だけでセンサーと望遠鏡を冷却します。


 したがってすべての観測機器を正しく動作させるためには、SAFARI以外の観測装置、バス機器の条件を考慮して、衛星の設計に反映させる必要があります。

例えば、衛星構造体やケーブルのシールド特性、コンポーネントの配置距離から、周波数ごとに放射・伝導の信号のレベルを規定したり、場所ごとに規定したレベルを、どうやって具体的に試験測定するかを決めます。

この作業は衛星内の複雑で様々なケースを想定する必要があります。まずは机上検討からシミュレーションに始まり、装置内に使われてる部品や動作クロック周波数の調査、装置の電磁界放射レベル、電源や信号線からの伝導による雑音の放射、干渉などを噛み合わせによってコンポーネントレベルからシステムレベルで確認するような、まさにミクロからマクロまでを討する作業です。

そして、どこまで検証すれば科学観測として満足できるかを細かく確認・精査して、やっと打ち上げに入ることができます。


 このように宇宙機の電磁環境両立性の検討は、地を這うような作業によって探査機や宇宙望遠鏡のパフォーマンスを100%発揮させるための縁の下の力持ちなのです。

衛星の打ち上げは華々しく美しいのですが、そこに行き着くまでには、何年もかけてそれぞれの分野のプロが、設計や検証評価を繰り返して、技術的な完成度を高めていく地道な仕事なのです。

(冨木淳史、とみき・あつし)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※