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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第188号

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ISASメールマガジン   第188号       【 発行日− 08.04.22 】
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★こんにちは、山本です。

 『日本の宇宙開発の歴史「宇宙研物語」』がリニューアル公開されました。実は、先週の火曜日の宇宙研の創立記念日に公開されたのですが、メルマガでの紹介が遅れてしまいました。

 懐かしい写真や、珍しい写真が満載の読みごたえのあるページになっています。どうぞ、お楽しみください。

 今週は、宇宙航行システム研究系の澤井秀次郎(さわい・しゅうじろう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:セミオーダーメイド型の衛星を目指して
☆02:「かぐや」月の裏側の重力異常の特徴を初めて明らかに
☆03:300年前に眠りから覚めた天の川銀河中心のブラックホール
☆04:日本の宇宙開発の歴史、公開!
☆05:「かぐや」ハイビジョンカメラ(HDTV)による「満地球の出」撮影成功!
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★01:セミオーダーメイド型の衛星を目指して 〜小型科学衛星シリーズの取り組み〜


現在、私たちは、「小型科学衛星シリーズ」という構想を検討しています。
これは、一言で言うと、衛星を安く、早く開発するための新しい枠組みを作ろうとする試みです。現在は、「プリプロジェクト」(=正式なプロジェクト化の一歩前の状態)にあって、今年度(2008年度)中の正式プロジェクト化を目指し、活動をしている最中です。


 小型科学衛星シリーズを説明する前に、そもそも人工衛星とはどういうものか、の話をさせていただきたいと思います。

 人工衛星というものは、大きく分けて、どの衛星でも搭載している機能を分担するバス部と呼ばれる部分と、その衛星固有の機能を分担するミッション部と呼ばれる部分から構成されます。バス部の機能としては、たとえば、地上との通信機能があったり、衛星各部の熱制御機能があったりします。
それから、電源、データ処理機能、姿勢制御機能や、衛星の各機器を支える構造材なども、バス部の重要な構成要素です。

 一方で、ミッション部呼ばれる部分は、衛星によってそれぞれ異なり、私たち宇宙科学研究本部の衛星の場合ですと、遠くの星を見るための望遠鏡であったり、小惑星のかけらを拾い集めるための装置だったり、衛星ごとの使命によって異なります。

 バス部というのは、どの衛星でも必要な機能なのですが、その中身は衛星ごとに異なります。
たとえば、熱制御系で考えて、金星や水星などのように太陽の近くにまで行くような衛星は、温度がとても熱くなるので、《それに対して、》暑くなりすぎないような対策をします。それに対して、《たとえば》逆に太陽から遠くの星を目指す衛星を作るならば、冷えすぎることを懸念して対策を立てるべきでしょう。通信にしても同じで、地球周りの衛星で非常に大量のデータを高速に送りたい場合と、惑星探査をするような衛星で、非常に遠い距離を、データの量は多くないけれども確実に送りたい場合では、通信装置にも違いが出てきます。
そのため、バス部の機能自体は同じようなものであっても、ミッション部がどういうことをやるか、に応じて、実際のバス部の中身は大きく異なることになります。科学探査を行う科学衛星の場合、衛星ごとにやることがはっきりと違う傾向が強く、バス部の設計も、衛星ごとに全く違うものになります。
そのバス部の開発コストは、衛星によって変わりますが、私の個人的な感覚だと、だいたい衛星全体コストの2/3くらいと思えば、大外れはしていないと思います。


 「小型科学衛星シリーズ」は、このバス部分をある程度標準化して、開発コストの低減やそもそもの開発期間の短縮を意図した試みです。しかし、前述のように、私たちが考える科学衛星は、衛星ごとの個性が強い、という特徴を、ある程度宿命として持っています。そのため、全く同じ設計のバス部をいろいろな衛星で使用する、というのは成立しません。世界中で、「標準バス」という考え方が多くありますが、その多くは同じ設計のバス部をいろいろな衛星で使用する、という考えに立脚していると、私たちは考えています。

 それに対して、私たちがここで考えているのは、いわばセミオーダーメイドで、衛星バスの機能(例えば、通信機能とか姿勢制御機能)ごとにモジュールの入れ替えができるような枠組みを作ることです。最近のパソコンは、ハードディスクやメモリ、グラフィックボードなどがモジュールになっていて、それらを他の物に組み替えることで、様々な用途に適したパソコンに仕立てることができるようになっています。誤解を恐れずに言えば、私たちが考えている「小型科学衛星シリーズ」も、このパソコンのように、ユーザ(=私たちの衛星の場合は、ミッション部の使命)に応じて、各機能をチューンアップできるようにしておくことで、毎回の開発負担を減らそう、という試みです。一見、見た目が違う形の衛星であっても、この同じ枠組みで開発をしていれば、短期間・低コストが実現できると、私たちは考えています。


 ただ、「セミオーダーメイド型の衛星」と言っても、全てに対応できるようなものを最初から考えることは危険です。そのため、私たちは、まず、自分たちの立脚点である科学研究コミュニティのニーズを満たすためのセミオーダーメイドとは何か?、を自問自答し、また、全国の大学研究者などからミッション提案をしていただきながら、セミオーダーメイドで対応する範囲を決めています。

 このような枠組みが本当に成功するのか、失敗に終わるのか。それはまだわかりません。ただ、私は絶対に成功すると信じていますし、このプリプロジェクトのチームを預かる身として、科学者コミュニティの期待に応えて成功させなくてはいけない、とも思っています。

(澤井秀次郎、さわい・しゅうじろう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※