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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第408号

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ISASメールマガジン   第408号       【 発行日− 12.07.17 】
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★こんにちは、山本です。

 今年の特別公開も 来週に迫ってきました。
九州地方は、大雨の被害が出ていますが、相模原は雨が降ったり、晴れて気温が上がり、真夏日や猛暑日が続いています。

 公開の日までに 梅雨は明けて欲しいのですが、猛暑日になるのは避けて欲しいものです。

 21日は H-IIB-3号機の打上げライブ放送を、パブリックビューイングでお楽しみいただけます。
(⇒ 新しいウィンドウが開きます http://www.yac-j.or.jp/tv/93htvh-iib.html

 今週は、宇宙物理学研究系の山村一誠(やまむら・いっせい)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:WISE J1810 にまつわる三つのわくわく
☆02:相模原キャンパス特別公開(7月27日〜28日)
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★01:WISE J1810 にまつわる三つのわくわく

 2012年4月27日に、
「突如出現した未知の赤外線天体: 赤色巨星からの突発的質量放出の瞬間か?」
というプレスリリースを行いました。
(⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2012/0427.shtml

「もっとわかりやすく説明して」との、山本さんからのリクエストで、メルマガに引っ張り出された訳ですが、いざ書き始めて見ると私の筆力では与えられた文字数には収まりきれないことが分かりましたので、方針変更。私(たち)がこの発見になぜわくわくしているか、を書くことにします。ぜひ上記プレスリリースと合わせてお読みください。


1.
 超新星や彗星など新天体の発見を精力的になさっている方々がいらっしゃいます。その熱意と努力にはただただ頭が下がるばかりで、とてもじゃないが自分にはまねできません。が、今回の発見も、ある意味新天体の発見といえるかもしれず、とても複雑な気分です。

もちろん、我々が毎晩夜通し観測していた訳ではなく、今回の発見のきっかけは、別のことでした。鍵になったのは、WISE と 2MASS という、二つの全天サーベイ観測のデータです。

星や銀河の性質は、どの波長の光をどれくらいたくさん出しているかに現れます。そのパターンを見ることで、専門家はたいていの天体の種類を言い当てることが出来るのです。(もちろん情報が多い方がより正確に分かります)

ところが、今回我々が見つけた WISE J180956.29-330500.2(長いので、以下 WISE J1810と略)という天体のパターンは、全く理解できないものでした。

3.4μm(マイクロメートル)での赤外線の明るさが、2.2μmに比べて数百倍も小さいのです。この落差は、常識では考えられず、可能性のある天体を思いつく限りデータを取り出して並べてみても、全く合いません。

しかし、答えはまさしくコロンブスの卵でした。星や銀河は変わらない、と思うから理解できないのです。2MASS は1998年、WISE は2010年にそれぞれ観測を行いました。この間で WISE J1810が大きく変化したと考えれば、つじつまがあうかもしれません。そう思って、2MASS、WISEそれぞれ分けて性質を考え、その間に何が起きたかを考えたのです。

答えは
「赤外線を出すダストの雲が、12年間に1000℃くらいから50℃くらいまで冷めた」
というものでした。さらに、1983年のIRAS衛星の観測では、この天体は赤外線を出していませんでした。この事実を合わせると「1990年代後半に、星から突然大量のダストが放出され、星から遠ざかるにしたがって冷めていった」
というストーリーが出来上がったのです。

ここまでは、実のところ想像のままに思いついたことを並べていただけなのですが、さて、こういう星は他にあっただろうか?と、探してみるとびっくり。「桜井天体」と呼ばれる星が、WISE J1810とまさしく同じ明るさのパターンを持っていることが分かりました。当然みな大興奮。なぜなら、桜井天体は、1996年に「急に明るくなった」のを発見された、まさしく「突然大量のダストを放出した」星だったのです。


2.
 では、今回の発見は第二の「桜井天体」なのか?
答えは Yes でもあり No でもあります。
プレスリリースに書いたとおり、今回の突発的な大量のダスト(とガス)の放出は、太陽のような比較的軽い恒星が、生涯の最期に起こす現象だと考えられます。質量などある条件が整わないといけませんが、星の生涯に一回ではなく、数千年〜数万年の間隔を置いて間欠泉のように繰り返すと考えられています。

いずれ、星の中心でエネルギーを生み出す核融合の原料である水素を使い果たすと、星は生涯を終え、白色矮星へと進んでいきます。「桜井天体」はこの途上にある星が、突然思い出したかのように溜まったヘリウムを一気に燃やして、赤色巨星へと「復活」した星なのです。

この特殊性ゆえに、恒星進化の最終段階の理論的研究が大きく進みました。(またいくつもの未解決な問題も残しました)

一方、WISE J1810は、「現役」の赤色巨星だと考えられています。確率で言えば、桜井天体よりもより「普通」の現象のはずなのですが、この 20年余り、赤外線や電波の観測によって、突発的なガスやダストの放出をした痕跡がある星はたくさん見つかっているにもかかわらず、現在進行形で放出している星を見つけることができていませんでした。

実は筆者自身の修士論文も、そのような痕跡を持つ星の一つについてだったのです。長年追い求めていた現象がようやく見つかって、しかも自分自身がそれに関わった、となると興奮しないわけにはいきません。


3.
 この発見は、宇宙研にいる3人の研究者の共同作業でした。

ガンディー・ポシャックさんはインド生まれ、イギリスで学位を取った後来日して、現在はJAXAトップヤングフェローとして、猛烈な勢いで研究を進めている人です。5月8日のJAXA相模原チャンネル「宇宙研速報」をご覧になった方はご存じの通り、日本語も達者です。彼の元々の専門は、X線観測をメインに銀河の中心のブラックホールなどの研究です。

瀧田怜さんは、赤外線・電波観測で生まれたての星を研究しています。

筆者(山村)も赤外線や電波で観測しますが、年老いた星が専門です。

普通なら一緒に研究することはありそうにない三人なのですが、まずポシャックさんが
「WISEで赤外線の研究をやってみたい」
と思い立って、データをいじり始め、自分が見慣れない変なデータがあったが何だろう、と山村と瀧田に相談を持ちかけて、三人で議論しているうちに、思いがけない方向に進展したのでした。

ポシャックさんが始めなければ何も起きなかったし、瀧田さんや、私がデータを見なければ、年老いた星の貴重な現象だとは気づかなかったかもしれない。個人の自由な発想と気軽な議論から始まった研究が、良い方にどんどん転がって大きな成果になった、とてもラッキーなことでした。

(山村一誠、やまむら・いっせい)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※