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突如出現した未知の赤外線天体: 赤色巨星からの突発的質量放出の瞬間か?

数多くの天体のデータを一度に解析する研究では、時として、思いもよらなかった発見をすることがあります。JAXA宇宙科学研究所の研究者が、通常では説明出来ない不思議な性質を持つ赤外線天体を発見しました。この天体は、もしかすると今からおよそ50億年後に、我々の太陽に起きるかもしれない突発的なガスやちりの噴出現象かもしれません。この結果は、5月20日発行予定のアメリカの天体物理学専門誌 The Astrophysical Journalに掲載されます。

JAXAトップヤングフェローのポシャック・ガンディー研究員、宇宙物理学研究系の山村一誠准教授、瀧田怜研究員からなる研究グループは、NASAの赤外線天文衛星 WISE(註1)によって観測された2億6千万個の天体のデータを、地上から観測された 2MASS と呼ばれる4.7億個の天体リストと見比べていて、一つの奇妙な天体を見つけました。WISE J180956.27-330500.2と呼ばれているこの天体は、2MASSの波長2マイクロメートルより短い波長と、WISEの観測のうち12 および 22 マイクロメートルでは非常に明るいのですが、WISEの3.4, 4.6マイクロメートルではとても暗いのです。このような波長による明るさの不一致は、通常の天体の性質では説明できません。さらに不思議なことに、この天体は「あかり」(註2)では明るく見えているものの、IRAS(註3)の観測データには見えていないのです(図1)。

そこで研究チームは、次のように考えました。IRAS の観測は 1983 年に行われ、2MASSは1997〜2001年、「あかり」は2006〜2007年、WISEの観測は2010年です。この天体は、1983年から2000年前後までの間に、赤外線で急激に明るくなり、その後ゆっくりと暗くなっているのではないか。しかも単に暗くなるだけでなく、より長い波長の赤外線を放つ、すなわち温度が下がっているのではないかと。

この星に何が起きているのでしょうか?研究グループの立てた仮説は次のようなものです。今からおよそ15年前にこの星から大量のちりとガスが宇宙空間に放出されました。放出された直後のちりはまだ暖かく、2MASSでも観測される短い波長の赤外線で輝いていました。ちりが星から遠ざかるにつれ温度が下がり、WISEや「あかり」で観測される波長の赤外線を放つように変わってきたというのです。放出されたちりの量はおおよそ地球一つ分。さらにその100倍以上のガスも同時に放出されたと考えられます。

太陽のような比較的軽い星は、進化の最終段階で赤色巨星となります。このとき、星の内部では炭素と酸素からなる核を、ヘリウムと水素の層が二重に取り巻いています。条件によって、水素の核燃焼によって徐々に溜まったヘリウムが、数万年に一回、瞬間的に燃えるということが理論的に予測されています。このヘリウムの激しい燃焼のエネルギーによって、大量のガスやちりが短期間に星から宇宙空間に放出されるのです。

過去にこのような「突発的質量放出」が起きた証拠は、いくつかの星で知られており、「あかり」による詳細な研究が進められています(新しいウィンドウが開きます 「あかり」が描き出す赤色巨星の塵の衣)。しかし、実際に赤色巨星からガスやちりが噴出した直後の様子をリアルタイムで捉えた例はこれが初めてです(註4)。今回見つかった天体は、過去10数年の間に赤外線での明るさが大きく変化しており、星に起きた激しい現象を時々刻々観測することが出来るのです。

年老いた星からのガスやちりの放出は、次世代の星や惑星、あるいは生命を作る材料を供給している、宇宙の営みの重要な一過程です。研究グループでは、世界中の天文台や観測装置を使って、追観測を行う計画を進めています。今回の発表によって、世界中の天文学者もこの天体に注目するでしょう。近い将来、この天体の素性が明らかになり、我々の太陽の運命についてもより詳しい予測が出来るようになるかもしれません。

本研究成果は NASA からも発表されています。
新しいウィンドウが開きます http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2012-118

註1: NASAとカリフォルニア大学が中心となって2009年12月に打ち上げた赤外線天文衛星。3.4, 4.6, 12, 22マイクロメートルの4つの波長で約10ヶ月にわたり全天を観測した。
註2: 2006年に打上げられた日本初の赤外線天文衛星。1年4ヶ月にわたり、9, 18, 65, 90, 140, 160マイクロメートルの6波長で全天を観測した。2011年11月に運用を終了したが、それまでに得られた膨大な観測データの解析が、今も続けられている。
註3: IRAS(アイラス): 1983年に、アメリカ・オランダ・イギリスによって打ち上げられた世界初の赤外線天文衛星。12, 25, 60, 100マイクロメートルの4波長で全天の観測を行った。
註4: 1996年に日本のアマチュア天文家桜井幸夫氏によって発見された「桜井天体」と呼ばれる星も、ヘリウムの瞬間的な燃焼によりガスやちりを放出した天体だと考えられていますが、この天体は、白色矮星まで進化が進んだところでヘリウム燃焼を起こした特殊な星で、今回見つかった WISE J1810 は、赤色巨星の段階で突発的な質量放出を行った例として初めてのものです。

図1:左上のオレンジ色に輝く星が今回見つかった WISE J180956.27-330500.2

図1:左上のオレンジ色に輝く星が今回見つかった WISE J180956.27-330500.2(以下 WISE J1810)である。この赤外線画像は、WISE 12, 22マイクロメートルのデータをそれぞれ緑と赤、IRAS 12マイクロメートルのデータを青として三色合成したもので、15年間の技術の進歩を反映して WISE の画像の方がずっとシャープに星を映し出している。明るい星の周囲には青く広がる光芒がみられ、1983年に IRAS も観測していたことがわかるが、WISE J1810 だけは IRASで見えておらず、最近になって急激に明るくなったことがわかる。
(画像はNASA/JPL-Caltech 提供)

参考:宇宙研速報(山村一誠 准教授、ポシャック・ガンジー研究員による解説)

2012年4月27日

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