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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第287号

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ISASメールマガジン   第287号       【 発行日− 10.03.23 】
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★こんにちは、山本です。

 お彼岸の連休は、春の嵐でした。強風にあおられてイロイロなものが飛んできました。選抜高校野球の開会式は黄砂に煙っていました。

 高い気温に、サクラも咲き始めてしまい、4月に予定していたお花見は葉桜見物になりそうです。

 今週は、宇宙航行システム研究系の野中 聡(のなか・さとし)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:風のお話 その3
☆02:「あかつき」出発!
☆03:「ひので」の観測データに基づいた太陽嵐の最新モデリングに成功
☆04:今週のはやぶさ君 と 「はやぶさ」軌道情報
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★01:風のお話 その3

 いま南国鹿児島の内之浦にいます。ロケットの打ち上げに必要な風のデータを取得するシステムを改良するために来ています。雲の隙間から時折降りそそぐ陽射しが心地よく、海から吹く暖かな風に満開の菜の花が揺れています。つい3日ほど前まで防寒着と手袋で寒さをこらえて作業していたのが嘘のようです。そう、先週はまだ雪の残る北国・能代で実験をしていました。そんなタイミングで山本さんから「メルマガの原稿を書いてください」メールが届いてしまいました。2年ほど前に「風のお話」と題してロケットと風のことについて、そして1年ほど前には風洞という装置で作り出す風についてのお話をしました。さて今回はどうしましょうか。やはり「能代の風」でしょうか。

 能代に住んだこともない人が能代の風の話ですか、と思われるかもしれませんが、風にかかわる仕事をしている人間として、海に面した能代実験場の冬場の風はとても印象深いものです。寒い季節は晴天がつづき強い風がふくことも少ない関東平野で育ったためか私には特に印象が強く感じられるのかもしれません。能代に限らず冬場の日本海に面した場所は、程度はそれぞれ違うかもしれませんがどこも厳しいものなのでしょう。台風が近くにいるわけでもないのに時には風速30mを超える風が一日中日本海から容赦なく吹き付けます。しかも気温は0度近く。体感温度は大変なものです。海岸沿いにはずらっと並んだ風力発電の風車がぐるぐる回り、一面に広がる風の松原と呼ばれる防風林が海から吹きつける風を受け止めます。

 私たちが研究している再使用ロケットの実験では液体水素を使って燃焼実験を行うので、屋外での作業がたくさんあります。真冬の一番厳しい時期は避けるものの、11月12月や2月3月など、相模原からすれば真冬に感じられる季節にも実験を行います。そんな季節、昼食の後に暖かい食堂から出て現場に向かうのにはちょっとした勇気と覚悟がいります。作業着の上には防寒着、手には皮手袋、頭にはヘルメット。安全には十分に注意しているので問題はありませんが、現場に向かうには前傾姿勢で本気で歩かないとたどり着かないほどの風を受けることもあります。

 屋外の現場で作業しているときには、天候判断がとても重要です。雨や雪、風などによって実験の進行が妨げられることもしばしばです。そんな天候判断に重要なのは、リアルタイムで刻々と更新されるインターネットのお天気情報と、そして欠かせないのが「現場天気予報」です。いつからか再使用ロケットの実験ではなぜか私の担当となっています。現場天気予報とは、雲の動き、風の様子、波の様子、男鹿半島の見え方、発電所の煙突からの煙などなど、常に現場でそれらを気にしながら、
「野中君、どうだ?」
との実験本部からの唐突な質問に
「あと何分くらいで雨が来そう」
とか
「もうすぐやみそう」
とか予測するものです。当たることもあれば大ハズレするときもあります。アタリハズレにかかわらず判断力が大切だと思って、半分真剣に半分楽しみながら天気予報しています。この現場天気予報には「風」は重要な手がかりで、天候の変化とともに変わる風を肌で感じながら、こういうときはこういう風が吹くのか、などと実験とともに経験を積んでいます。かと言って天気予報の精度が上がっているかというと、まだまだ勉強が足りないようです…。

 今月、もう一度能代へ行く予定があります。そろそろ北西からの風も弱まり、春の気配が感じられる頃でしょうか。ひばりがさえずる穏やかな春の実験場はとても快適ですが、冬の冷たい風に耐えながら現場で空を眺めて作業するのも嫌いじゃありません。そんなとき宿に帰ってからみんなで味わうきりたんぽ鍋なんかは最高です。

(野中 聡、のなか・さとし)

能代多目的実験場
http://www.isas.jaxa.jp/j/about/center/ntc/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※