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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第183号

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ISASメールマガジン   第183号       【 発行日− 08.03.18 】
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★こんにちは、山本です。

 週末の暖かさで相模原キャンパスの桜も梢がピンクに見えるようになりました。予報どおりあと10日ほどで咲くのでしょうか? それとも、モット早くなるのでしょうか? 毎年、花見を企画している人たちにとって頭の痛い季節です。

 1月から3ヶ月連続で【BS-i】で放送されている『2008年宇宙の旅』の第3回(チャプター3〜金星)は、3月22日(土)の19:00〜20:24に放映されます。もちろん、ナビゲーターの宇宙の先生は、広報委員長の阪本成一先生です。

また、3月28日から3夜連続で再放送されます。この機会をお見逃しなく。

 今週は、大気球観測センターの福家英之(ふけ・ひでゆき)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:北の大地に大気球の新しい拠点が誕生します!
☆02:第27回 宇宙科学講演と映画の会
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★01:北の大地に大気球の新しい拠点が誕生します!

 現在進められている大気球の実験場の移転についてご紹介しましょう。

 「大気球(だいききゅう)」は、観測ロケットや人工衛星と並んで古くから利用されてきた、宇宙科学のための重要な乗り物です。ISASでは、1965年に気球部門が発足し、茨城県大洋村や福島県原ノ町で実験がおこなわれたのち、1971年に岩手県三陸町(現在の大船渡市三陸)に大気球観測所が開設されました。以来、三陸大気球観測所は国内唯一の大気球実験基地として、毎年全国から研究者が集結して数多くの実験が実施され、多くの科学的成果が挙げられてきました。

 この36年間に三陸で放球(気球を打ち上げることを放球と言います)された大気球は413機にのぼります。ISASがこれまでに打ち上げた天文観測衛星の観測器技術にも大気球で得られた成果が数多く反映されています。「はやぶさ」や超小型衛星などへと結びつく工学的成果も得られてきました。ISS(国際宇宙ステーション)に先立って無重力環境での生物の動 きが研究されるなど、先駆的な実験も多く実施されてきました。2002年には、無人気球による到達高度の世界最高記録53kmも達成されました。

 このように多彩な成果を積み重ねてきた大気球は、宇宙に挑む「入口」としての魅力もあって、ますます多くのユーザーから利用希望を受けています。
こうしたユーザーの希望に着実に応えるため、ISASでは気球の設計製造、放球方法、飛翔管制、回収技術、搭載機器開発、など、あらゆる側面において不断の開発努力が続けられてきました。欧米など諸外国の大気球実験と比べても、日本はオリジナルな独創的気球技術を数多く生み出しており、独自の地位を確立しています。

 しかし、近年、観測器の大型化や大重量化が進むとともに、より高い高度への到達も求められるようになり、気球の大型化が急速に進んできました。
そのため、三陸大気球観測所の限られた敷地(全長160m)では大気球実験を安全におこなうことが難しくなってきました。また、地球規模の気候変動のためか、大気球実験に適したジェット気流の吹く緯度が北上しており、気象環境の観点からも制約を受けるようになってきました。

 ここで話が少し飛びますが、北海道の十勝平野に位置する大樹町には、長さ1kmの滑走路と47haの広大な敷地を持つ多目的航空公園があり、JAXA総研本部や諸大学などによる航空宇宙関係の実験に利用されてきました。2003年には総研本部とNICT(情報通信研究機構)による成層圏プラットフォーム実験(SPF)の実施に伴い、巨大な格納庫や広い舗装エリアなどが整備されましたが、SPFの完了に伴い、2004年度以降、それらの利活用方法が模索されていました。

 そこで、私たちは大樹町航空公園で大気球実験を実施するとどうなるか、というケーススタディをおこないました。その結果、巨大格納庫や広い舗装エリアをうまく利用することで、従来よりも大型の気球をこれまで以上に安全に放球できるのではないかという見通しを得ました。また、航空公園の周辺は人口の少ない平野が広がっているため、リアス式海岸の三陸地方では難しかった観測器の陸上回収を実現できる可能性もあります。三陸より北方にあるためジェット気流の北上にも対応可能で、しかも北海道は梅雨がほとんど無いことから、実験の機会を増やせるのではないかという魅力もあります。

 以上を踏まえ、大気球実験を大樹町で実施することについてJAXA内で議論が重ねられました。その結果、大気球の実験場所を三陸から大樹町に移転することが2006年初頭に決まりました。コストのことを考えると、三陸の施設設備を維持しつつ大樹町でも実験することは現実的ではないため、大樹町への完全移転となりました。

 2007年度に入り、大樹町航空公園で大気球実験を実施するための放球設備や飛翔管制施設などの整備が進められています。このうち放球設備(通称:スライダー放球装置)は、舗装路に敷設したレールに沿って大気球システムを移動させられるもので、巨大格納庫内でのガス充填後に屋外に移動して放球することができるという、世界でも類を見ない次世代型の放球設備となっています。飛翔管制施設(通称:大気球指令管制棟)は、三陸では3箇所に分散させざるを得なかった施設を融合した機能を持つ4階建ての建物で、三陸とほぼ同等の床面積でありながら、大気球実験の準備、受信管制、設備の維持整備、などを三陸よりもさらに効率的に実現することを目指した設計となっています。現在、施設設備の整備や三陸からの荷物の引越しは最終段階に入っており、まもなく完了する運びです。

 三陸大気球観測所では、最後の大気球実験が終わった2007年9月に閉所式が催され、これまで何かと大変お世話になった地元の方々やJAXA関係者をはじめとする数多くの方々のご出席をいただきました。慣れ親しんだ地を離れることは、やはり心情的には、つらいものがありますが、新しい土地でこれまで以上に大気球実験を発展させて成果を出すことが、三陸でお世話になった方々への最大の恩返しになると思っています。

 大樹町での大気球実験は2008年度から開始され、その1号機は5月に放球される予定です。北海道の方々とも力を合わせ、雄大な十勝平野のように大きな可能性と夢を託して、大気球実験をますます発展させていきたいと思っていますので、これまで同様、いや、これまで以上に、みなさまのご支援ご協力をよろしくお願いします。

(福家英之、ふけ・ひでゆき)

http://www.isas.jaxa.jp/j/enterp/ball/index.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※