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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第155号

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ISASメールマガジン   第155号       【 発行日− 07.09.04 】
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★こんにちは、山本です。

 観測ロケットS-520-23号機の打上げ成功!
(詳しくは⇒ http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2007/0902.shtml

 来週(9月13日)には「かぐや(SELENE)」の打上げも控えています。

 このところ、ISASのトピックスの更新が多くなっています。猛暑の8月が終わり、一気に【仕事モード全開!】といったところでしょうか

 今週は、宇宙輸送工学研究系の船木一幸(ふなき・いっこう)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:太陽系外縁部探査のための宇宙推進技術
☆02:「すざく」で探る中性子星近傍の時空構造
☆03:赤外線天文衛星「あかり」主要ミッションを終了
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★01:太陽系外縁部探査のための宇宙推進技術

 皆さんは、太陽圏、という言葉をご存じでしょうか?

 太陽から吹き出す高温で電離した粒子(プラズマ)は太陽風と呼ばれ、秒速450kmもの高速な流れです。太陽風の届く範囲を太陽圏、または、ヘリオスフィア(Heliosphere)と呼びます。太陽系の外縁部に達した超音速の太陽風は、星間物質や星間磁場によって亜音速にまで急減速されて末端衝撃波面を形成します。この末端衝撃波面の外側では、低速度の太陽風と星間物質とが混ざり合うヘリオシースという領域を経て、ヘリオポーズにて星間恒星間空間へ接続している、と予想されています。太陽圏の最外縁であるヘリオポーズでは、太陽から放出された太陽風が星間物質や銀河系の磁場と衝突して完全に混ざり合うそうです。

 太陽圏の外、ヘリオポーズの向こう側は、正に未踏のフロンティアです。アメリカが打ち上げた探査機のいくつがヘリオポーズに向かっており、その1つが探査機ボイジャーです。ボイジャー1号は太陽からおよそ90天文単位(AU)の末端衝撃波を通過し、ヘリオシース中を航行中です。太陽から30〜500AU程度の範囲にあり、岩石と氷でできた小天体が分布するエッジワース・カイパーベルトはヘリオポーズと重なるように分布しており、これより先はだいたい10万AU付近までオルトの雲(Oort Cloud)と呼ばれています。オルトの雲は太陽の重力圏の限界に位置し、長周期彗星の供給源として注目されています。太陽系全体のメカニズムやその形成過程、そして、他の恒星系との輸送現象等を理解するためには、こうした太陽系外縁天体の直接探査が求められています。

 しかし、この太陽系外縁部、とにかく遠いのが難点です。先のボイジャー探査機が末端衝撃波へ到着するまでには、1977年の打ち上げ以来、なんと30年近い時間を必要としました。太陽系外縁部へのミッションを短期間で行うには、どうすれば良いのでしょうか?


1)ニューホライズン(New Horizon)方式
 大型の打ち上げロケットによって探査機を最大限加速させ、惑星間軌道へ放り出すやり方です。冥王星とカイパーベルトへ向かうNASAのNew Horizon探査機は、総重量がわずか470kg程度と軽量化されており、打ち上げ後1年後の2007年に木星スイングバイを実施。更に加速した上で、2015年には冥王星フライバイ観測を予定しています。

 New Horizonの打ち上げでは、アトラスVと呼ばれる比較的大きなロケットが用いられました。大きなロケットに、とても小さな探査機をのせて、一気に加速させます。


2)イオンエンジン方式
 小惑星探査機「はやぶさ」でも用いられたイオンエンジンは、探査機に搭載した推進剤を有効利用することで大きな速度増分(ΔV)を可能にします。様々な検討により、1kWクラスの電気推進ロケットを用いると、New Horizonのような太陽系外縁部ミッションに必要な期間を20〜30%短くできることが分かっています。あるいは、目標とする天体付近でイオンエンジンによってブレーキをかけることで、惑星を回る周回軌道へ探査機を導く事が可能になります。ただし、太陽から遠く離れた宇宙空間では、太陽電池を用いることができません。原子力電池の利用が前提となります。


3)セイル/ビーム推進方式
 イオンエンジン方式よりももっと速く太陽系外縁部まで探査機を飛翔させることはできないのでしょうか?

 通常の探査機は、推進力を得るために宇宙機内に貯蔵した推進剤を噴射するのですが、この推進剤を宇宙機の外部から送りこんで宇宙機を航行させる方式が、提案されています。例えば、私たちのグループでは、磁気セイル(マグセイル)を研究していますが、これは太陽風プラズマ流を受け止めて推進する、新しいタイプの宇宙推進です。マグセイルには様々な発展版があり、例えば、地球周回軌道に配置した発電衛星から高出力プラズマビームをマグセイル宇宙機に打ち込んで推進させる「マグ・ビーム」や、核爆発で生じたプラズマの爆風を受けて飛翔する「マグ・オリオン」が提案されています。後者は荒っぽすぎて、とても社会的には受け入れ難いですね。しかし、探査機を地球近傍から爆発的に加速させることは原理的には可能であり、今後の研究が待たれます。


 太陽系外縁部の探査には、ミッション時間の短縮の他にも、電力や通信の確保など、様々な課題があります。これらを克服する新しいアイディアと技術を結集して、太陽圏のフロンティアに挑戦する日が、早く来るといいですね。関連の研究は、日本では、まだまだ少ないようです。

(船木一幸、ふなき・いっこう)

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※