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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第125号

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ISASメールマガジン   第125号       【 発行日− 07.02.06 】
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★ こんにちは、山本です。

 「月に願いを!」キャンペーンは、締切を2月28日まで延期しました。
皆さんも是非応募をお願いします。
メッセージがナカナカ思い浮かばないアナタ! 名前だけでもいいんです。
一人じゃ寂しいと思っているアナタ! ペットの名前だっていいんです。

 大高郁子さんからイラストが、ポストカード・栞に続いてシールになりました。(4種類)
前回同様、丸の内オアゾにあるJAXAi(http://visit.jaxa.jp/jaxai/) で入手できます。

 今週は、宇宙探査工学研究系の曽根理嗣(そね・よしつぐ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:そして、SOLAR-Bは「ひので」になった
☆02:「はやぶさ」試料容器のカプセル収納・蓋閉め運用が完了
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★01:そして、SOLAR-Bは「ひので」になった

 SOLAR-B打上げを1週間ほど先に控えたその日、内之浦宇宙空間観測所に雷がおちた。深夜、おそらく内之浦に出張で来ている誰もが目を覚ましたことだろう。何度となく轟音と、地響きが続いた。手元のパソコンを立ち上げて雷情報を確認すると、雷雲がまさに我々の頭上にあることがわかった。落雷情報からは、実験場(内之浦宇宙空間観測所の通称)近辺に落雷があったことが認識された。

 SOLAR-B打上げにかかる衛星保安主任を拝命している身としては、一瞬色々な思いが頭を巡った。今から実験場に向かうべきか?それで自分自身が○焦げになったとしても何の価値もない。この状況下で実験場に向かうことは精神論でしかない。

 ロケット保安主任と話すことができた。実験場に上がってくることはむしろ得策ではない。待機して、雷雲が去ったことを見届けて、復旧作業に努めよう。

 SOLAR-Bの打上げは、天気に翻弄された。9月23日に予定のスケジュールどおりに何も支障なく打上げに望めたことは、実験関係者の自己犠牲的精神と、知識と、チームワークがなしえたことだと思われる。

 落雷もこの時が初めてではない。実験場内の送電網、発電設備、警報関係設備、地上系ネットワーク、電話の交換機まで深刻なダメージを受けていた。電力が来なければ衛星を守るための空調が使えない。実験場の電気班は不眠不休を続けていた。変われる人はいない。もともと人員が不足気味の宇宙研において、余人をもって代えがたい存在であった。

 朝一でミーティング。落雷の被害報告。空調の状況認識。だれが何を段取りするか、整理が進む。もうじき頭胴部移動だ。予定通り頭胴部をM-Vロケットに設置できるか。できなければ打上げは延期されるかもしれない。
打上げの延期は、コストに跳ね返る。海外の共同開発者へも迷惑をかける。何より地元の皆様にもご迷惑をおかけする。スケジュールは死守したい。

 その日、私は相模原へ引き返す日だった。戻ってよいのか?
仕事の引継ぎはできた。今ここにとどまるべきか?

 家族に電話をする。
「今日は戻れないかも知れない。」
「そう。」
会話が続かない。何かあったな。
「ごめん。事情は言えない。兎に角、俺じゃなければ出来ないことを片付けてみる。帰れる約束はできない。」
「解っているわ。大切なときだものね。こちらは気にせず、がんばって。」

 何かあったな。打上げスケジュールに係わる事象ができて家に帰れないなんて、宇宙探査の女房は常に覚悟を決めている。理由も聞かないのが常識だ。帰宅できないくらいで暗い声は出さない。何かあった。

 驚くほどのチームワークで作業の手分けが進む。精神論以外で、私がこの場にとどまる必要があるか。自問自答。

 最終の連絡バスに乗り、深夜に帰宅。
「父が、さっき、亡くなったの。」
SOLAR-Bからもらった時間は5日間。
「明日、お義父さんに会いに行こう。」

 葬儀の2時間前、小杉プロマネから携帯に電話が入る。
「曽根君。台風が来た。今から直ぐに内之浦に戻れますか。」
「すみません。こんなときに心配をかけたくなかったので黙っていましたが、義父が他界しました。予定通りのスケジュールで内之浦に戻れるようにしています。今日で事が済みます。」
「心無いことを言ってしまった。大丈夫かい。内之浦は大丈夫だから、気を強くもってください。」

 9月23日。そのときが近づく。顔が引きつるとはよく言ったものだ。

 小杉プロマネの檄が飛ぶ。
「成功して喜ばず。失敗して動ぜず。」

 朝6時35分。SOLAR-Bは「ひので」になった。打上げ後、記者会見に向かう車の中、小杉プロマネのあんなに興奮する姿を見たことがない。
「私の判断は間違っていなかった。取りまとめ方、チーム編成、間違っていなかった。大丈夫。大丈夫。」
自分に言い聞かせているのか、私に語りかけてくださっているのか。

 記者会見での満面の笑み。海外の協力者の安堵の顔。空は晴れている。
雷雲はいない。

 11月、その小杉先生が他界。先生、「ひので」は元気です。皆がんばっています。

 どうか、私たちの太陽として、見守ってください。

(曽根理嗣、そね・よしつぐ)

太陽観測衛星「ひので」の初期観測成果
http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/1220.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※