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ISASメールマガジン

ISASメールマガジン 第119号

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ISASメールマガジン   第119号       【 発行日− 06.12.19 】
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★こんにちは、山本です。

 117号でおしらせした「セレーネ 月に願いを!」
新しいウィンドウが開きます http://www.isas.jaxa.jp/j/new/event/selene_camp/index.shtml) のキャンペーンページを新設しました。
締め切りまで後1ヶ月半と迫っています。大勢の応募をお待ちしています。

 今週は、宇宙プラズマ研究系の阿部琢美(あべ・たくみ)さんです。

── INDEX──────────────────────────────
★01:小型ロケットの打上げ
☆02:観測ロケットS-310-37号機噛み合わせ始まる
☆03:「宇宙学校・おきなわ」、質問つぎつぎ
☆04:NHK教育テレビ・サイエンスZERO「見えてきた“宇宙の謎”日本の最新天体観測」
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★01:小型ロケットの打上げ

 鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所から9月に打ち上げられたM(ミュー)-Vロケットは太陽観測衛星「ひので」を無事軌道に投入しましたが、次の固体ロケットによる衛星打上げまでにはしばらく時間があくことになります。しかし、内之浦からの打上げは今後も行われます。それは、小型の観測ロケットと呼ばれるものです。観測ロケット(英語ではsounding rocket)は衛星打上げ用のロケットとは異なり、ロケット自身が宇宙空間を飛びながら落下するまでの間に観測を行なうものです。

 観測ロケットは毎年1〜2機、内之浦から打ち上げられています。観測のテーマは全国の大学や研究機関に所属する研究者から提案されたものを評価・選定し決定されます。衛星の打上げに比べると地味で、観測も短時間に限られますが、着実に成果を上げてきています。気球が到達可能な高度は約50kmまで、多くの人工衛星は高度250km以上を飛んでいるので、両者の間の空間を直接観測できるのは観測ロケットのみということになります。この空間は中間圏や熱圏、電離圏と呼ばれている領域ですが、観測ロケットはこれらに特異な現象を解明するために打ち上げられてきました。

 その観測ロケットの次の打上げが来年1月に行われますが、この実験の目的は電離圏下部に発生する高電子温度領域の生成メカニズムを解明する事です。電子温度とは聞きなれない言葉ですね。電離圏という高度80km以上の領域は大気の一部が電離し(プラズマ)、マイナスの電荷をもつ電子とプラスの電荷をもつイオンが中性の大気と共存しています。大気の温度というのは一個一個の分子や原子のもっている運動エネルギーの大きさによって定義されますが、同じように電子の運動エネルギーにより定義されるのが電子温度です。この電子温度が冬期の中緯度帯(九州のような緯度30〜35度の領域)でお昼頃に極端に高くなる大変面白い現象が、過去の研究結果として報告されています。この高い温度層が生成されるメカニズムを解明する事が今回の実験の目的なのです。ロケットには電子温度や電子のエネルギー分布を観測するための測定器、温度上昇の鍵を握っている事が予想される電場の測定器や磁場の計測器が搭載され、電離圏中のプラズマを総合的に観測します。

 今回の実験で使用する観測ロケットは全長約7m、重量約770kgとサイズは小型ですが、それゆえの使い勝手の良さが特徴です。提案から打ち上げまで早ければ2年位で実現が可能です。テレメータ、バッテリー、タイマー等の共通計器は標準化されているので、システム検討が比較的容易です。したがって、研究者側も観測の焦点を絞った計画を立て易いわけです。私はこのような観測ロケットは大学院生にとって格好の研究手段になると思っています。今回の実験にも数名の大学院生とポスドク研究員が中心的に携わっています。

 12月第2、第3週はその観測ロケットの噛み合わせ試験が行なわれています。この試験は実際にロケットの上部に観測用の機器やテレメータ等の共通計器を載せて、問題なく動作するか、また振動試験や衝撃試験、スピンタイマー試験を行なって異常がないことを確認するものです。12月20日までかけてこれらの試験を行なって、来年1月の打上げを目指します。

 このロケットの打上げは近くの場所から、見学も可能です。M-Vに比べれば大きさも音も小さいですが、それでもロケットはロケット。私は今回 もあの感激を味わうよう、実験に参加してきます。

(阿部琢美、あべ・たくみ)

http://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/1212.shtml

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※※※ ☆02以降の項目は省略します(発行当時のトピックス等のため) ※※※