宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASコラム > 小さな衛星の大きな挑戦 惑星分光観測衛星の世界 > 第6回:衛星運用システム

ISASコラム

第6回:衛星運用システム 永松弘行
科学衛星運用・データ利用センター 主任開発員

(ISASニュース 2013年9月 No.390掲載)

 今回は、惑星分光観測衛星の運用システムについてお話しさせていただきます。

 衛星運用とは、衛星に課されたさまざまなミッションを遂行するために、地上から衛星を監視・制御する活動全般を指します。運用のためには、以下の三つのシステムが必要になります。(1)地上にあるアンテナ(図1)およびアンテナを介して衛星に送信する電波(コマンド)を変調する装置、衛星から受信する電波(テレメトリ)を復調する装置から成る地上局システム、(2)衛星の軌道を決定・予測するための軌道力学システム、(3)衛星の運用(観測)計画作成・検証、衛星へのコマンド送信・状態監視、テレメトリデータ受信・解析などを行うための運用システム、です。

図1 惑星分光観測衛星の主局・宮原11mアンテナ

 衛星運用は、以下の三つのステップから成り立ちます。(2)が狭義の衛星運用といえますが、ここではその前後の作業を含めて衛星運用と捉えています。

(1)運用前の作業
 ・軌道力学システムが衛星の軌道予測値を計算する。
 ・運用システムは、どの地上局で運用するかを軌道予測に基づき決定する。
  また、衛星の目的に応じた運用(観測)計画を作成・検証する。
 ・検証済みの計画に従い、(2)で送信するコマンド(ミッション機器の制御、
  姿勢制御用コマンドなどを含む)を作成する。

(2)運用中の作業
 ・運用システムを用いて、(1)で作成したコマンドを衛星に送信する。
 ・衛星状態をリアルタイムで監視し、衛星の健全性を確保する。
 ・軌道決定に必要な測距データ(衛星と地上局との距離、方位角・仰角などの
  時系列データ)を取得する。

(3)運用後の作業
 ・(2)で取得したテレメトリデータを解析し、異常がないか診断する。
  必要に応じて次回以降の運用計画に診断内容を反映する
  ((1)にフィードバック)。
 ・(2)で取得した測距データに基づいて軌道力学システムが衛星軌道を
  決定・予測し、次回以降の運用に反映する。
 ・運用報告書を作成し、関係者に通知する。

 以上の作業を日々繰り返すことで、衛星の健全性が保たれ、また、ミッション継続、高品質の観測データ取得が可能となります。衛星打上げ後は、衛星とのインターフェースは事実上運用システムのみとなるため、運用システムの完成度が、衛星ミッションの成否に大きく関係する一要素だといってもよいかもしれません。

 ISASの現行の衛星運用システムは、火星探査機「のぞみ」と併せて開発されたもので、同一のUNIXワークステーション上で複数衛星の運用をサポートできるのが特長です。2010年打上げの金星探査機「あかつき」まで、衛星ごとに開発・改良され、大きなトラブルを起こすことなく維持・運用されています。

 このシステムの長所を引き継ぎつつ、より効率的なシステム実現のため、汎用衛星試験運用ソフトウェア(Generic Spacecraft Test and Operations Software:GSTOS)の開発を数年前に開始しました。これは、ISASで今後打上げ・運用が予定されている科学衛星・探査機をターゲットとしており、ソフトウェアを機能ごとに開発し、そのソフトウェアの組み合わせ方をフェーズごと(単体試験、総合試験、運用など)および装置ごと(単体試験装置、衛星試験装置、衛星管制装置、QL装置など)に変えることによって、さまざまなフェーズで必要となるさまざまな装置を用いて体系的に運用システムを構築できることを目標としています。また、ワークステーションで稼働していたシステムを、より広く使われているPC上のLinuxで稼働するようにしたのも大きな特長です。

 惑星分光観測衛星は、GSTOSのファーストユーザーです。惑星分光観測衛星向けのGSTOSは、衛星の試験フェーズから投入されています。そこで完成度を上げつつ、2012年10月より運用システムの構築を開始し、運用システムとしての試験を何度か行いました。最も大掛かりな試験が、2013年7月初めに行われた「運用性総合試験」です。この試験では、運用システム、地上局システム、衛星本体を接続し、本番の運用さながらの環境を構築して運用の成立性を確認することを目的としています(図2)。また、惑星分光観測衛星は、2013年3月に完成したばかりのイプシロン管制センター(Epsilon Control Center:ECC)にて初期運用を行います。初期運用フェーズが終了したら、徐々に相模原の衛星管制センターに運用をシフトし、定常運用に入ります。

図2 運用総合試験の様子

 衛星運用システムは、地上から静かに惑星分光観測衛星の活動を見守っていきます。


(ながまつ・ひろゆき)