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ISASコラム

第5回:構造の話 竹内伸介
宇宙飛翔工学研究系 助教

(ISASニュース 2013年8月 No.389掲載)

 惑星分光観測衛星は、衛星下部のバス部と、その上に搭載されるミッション部とで構成されています。タイトル絵下側の立方体と左右の板(太陽電池パネル)がバス部、その上に載っている竹やり状の筒(望遠鏡フード)の付いた直方体がミッション部です(※厳密には立方体、直方体ではありませんが、文中ではそのように表現します)。バス部が約240kg、ミッション部が約110kg(NESSIE含む)あります。

 ミッション部は全体が望遠鏡になっています。直方体はほぼ空洞で、フードから入ってきた光(極端紫外線)は直方体の底の鏡で反射され、右肩の箱の中にある観測装置に集められます。光軸の精度要求が高いため、直方体は熱変形が小さいCFRP(炭素繊維複合材料)表皮のハニカムパネルを組み合わせてつくられています。

 一方バス部は、これまでの連載でも触れられているように、一般に衛星で共通に必要な機能を集め、いろいろな衛星で使える標準バスとして設計されています。バス部の中身は図1に示すようにさまざまな機器が詰まっており、ミッション部とは逆に密度がかなり高くなっています。バス部は、安価なアルミ表皮のハニカムパネルを使用しています。


図1 惑星分光観測衛星バス内面機器配置図

 「標準バス」という以上、標準化のために、ミッション部の設計にはある程度制約があります。例えば、バス部上面に はある形状に取り付け用のメネジがあり、ミッション部はこの形状に合わせて取り付け部を用意します。それ以外に構造 では、ミッション部の重量・重心高さ・偏心・外形の最大寸法・固有振動数などが制約になります。ほかに熱・電力など の制約もありますが、制約を満たすミッション部を設計することで、従来より容易に衛星をつくることができます。とは いうものの、皆さん欲張ってミッション部にいろいろ詰め込み、結局、重量超過で苦労する場合も多いのですが。

 ここで、標準バスの構造設計で苦労したことをご紹介しましょう。図2は、この標準バスを使って計画中のジオスペー ス探査衛星です。ご覧の通り、±Z面で大半の機器が入れ替えられており、ほかの面でも一部機器の位置を入れ替えてい ます。太陽電池パネルも形状が変わっています。このような変更に柔軟に対応するため、例えば一部機器の底面形状を 共通化して入れ替えを容易にし、さらに各面に付く機器の重量が偏らないように調整しています。太陽電池パネルも、パ ネル間ヒンジや保持解放機構などを共通化し、さまざまな連結方法・形状に対応可能になっています。また当然、構体(ハ ニカムパネル)も共通設計です。構体は、ロケットでの打上げ時にバス搭載機器重量と、さらにミッション部重量を支え る必要があります。ミッション部重量は100 〜200 kg 程度を想定し、最大重量でも強度上大丈夫な設計です。つまり、 この構体は惑星分光観測衛星のミッション部には強度が余る、すなわち余分に重くなっています。それがこの標準バス 構造の最大の欠点で、開発初期から分かっていましたが、コストなどの問題もあって解決できませんでした。


図2 ジオスペース探査衛星バス内面機器配置図およびバス外形図

 このように、惑星分光観測衛星はバスの標準化(=コスト削減)を行った結果、実は少し重い衛星となっています。構 造担当としては少し残念ですが、逆に打上げ時の強度には余裕があります。この記事が刊行されるころにはちょうど打上 げが差し迫っていると思いますが、安心して打上げを見守っていただければと思います。

(たけうち・しんすけ)