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ISASコラム

第4回:惑星分光観測衛星の熱制御システム 岡崎 峻 SPRINT-Aプロジェクトチーム

(ISASニュース 2013年7月 No.388掲載)

 惑星分光観測衛星は、下のバス部と、バス部の上に搭載されるミッション部に大きく分かれています。バス部の基本設計はさまざまなミッションに対応できるような熱設計になっており、ミッション部では各ミッションで熱設計を行います。惑星分光観測衛星は、ミッション部のみ、バス部のみ、そしてミッション部とバス部を結合させた総合試験などを経て、衛星の熱設計の妥当性を確認してきました。これら地上での試験は、多くの方の協力で24時間態勢、1週間以上も続けられ、温度などのデータを監視し続けます。そしてチャンバーに張り付いて試験をしてきた惑星分光観測衛星は今、内之浦宇宙空間観測所で宇宙に旅立つ準備をしています。
 今回は、惑星分光観測衛星の熱制御システムに関する話です。


熱制御システム

 惑星分光観測衛星には、さまざまな電子機器が搭載されています。宇宙でこれらの機器を使用するための一つの条件として、温度があります。打上げからミッションの終了まで、これら衛星に搭載される機器を使用するためには、機器を適切な温度に保たなければなりません。そこで、断熱・放熱などを目的とした熱制御材料とヒータを衛星の外面や内部の適切な位置に搭載し、熱設計を行います。これらの熱制御材の組み合わせで、打上げ、日照中・日陰中、機器発熱が大きいとき・小さいときなど、ミッション終了まで、要求される温度に保つことが熱制御システムの仕事です。


熱制御材料

 惑星分光観測衛星の外表面は、金色の部分と銀色の部分に分かれています。金色の部分はMLI(Multi-layer insulation)と呼ばれる断熱材です。よく見ると、惑星分光観測衛星の上の部分と下の部分の金色の具合が少し異なりますが、これは材料を製造しているメーカーの違いで、役割に差はありません。重要なのは中身です。MLI内部のつくりはそれぞれの部分に適したものになっており、ミッション部MLIは高い断熱性能を発揮する設計になっています。銀色の部分の多くは、銀蒸着テフロンと呼ばれる材料が使用されています。銀蒸着テフロンは太陽の熱は吸収しにくく、衛星の熱は排出できる魅力的な放熱材です。衛星の熱を宇宙空間に逃がす役割を果たします。


惑星分光観測衛星の熱設計

 惑星分光観測衛星の写真を見ていただくと、上のミッション部は金色の面積が広く、下のバス部は銀色の面積が広くなっています。この面積から、衛星がどのような設計をしているのかが大まかに分かります。前述のように、金色の断熱材の面積が大きいミッション部は断熱したい熱設計で、銀色の放熱材の面積が大きいバス部は放熱したい熱設計という具合です。そうすると、銀色の面積が大きいバス部は放熱したい熱設計なので、熱を出す電子機器がたくさん搭載されていることが想像できます。また、金色の面積が大きいミッション部は断熱しているので、発熱機器はあまり搭載されず、宇宙の熱環境とは関係なく温度制御が必要なのかな、と想像することができます。
 少し誘導的ですが、まさに惑星分光観測衛星のミッション部の熱設計の一つの特徴は、ほぼ構体全体が高性能の断熱材に覆われており、ヒータと高性能断熱材で、観測の要求に応えるように望遠鏡の構体温度を均一に保つ設計になっています。また、ミッション部の放熱面の位置から、太陽光がどちらから当たる衛星なのかといったことも想像できます。


 熱制御材は衛星の外表面に搭載されるものが多く、衛星の外見を左右するので目立つ存在です。温度は見た目には変化しないので想像しにくいのですが、衛星の設計・運用などさまざまな部分と温度をコントロールする熱制御システムは関連しており、惑星分光観測衛星の宇宙での活躍を支えています。


左:惑星分光観測衛星外観 右:総合試験準備風景

(おかざき・しゅん)