本年(2008年)は、11月14日に打上げ予定のスペースシャトルで実験用凍結細胞を宇宙用冷凍庫に収納して「きぼう」に届け、放射線生物プロジェクトの実験を2つ実施します(図)。宇宙ステーションでは、低線量・低線量率の宇宙放射線に長期間さらされます。宇宙放射線の直接的・間接的な被曝影響によって、どのような遺伝的影響が生じるのでしょうか。さらに微小重力による影響はどうでしょうか。「哺乳動物培養細胞における宇宙環境曝露後のp53調節遺伝子群の遺伝子発現(略称:RadGene)」は、細胞の遺伝的安定性をつかさどるがん抑制遺伝子の一つp53が調節している遺伝子群の発現を解析することを目的にしています。宇宙環境でp53が正常に働くことができるか否かを明らかにして、宇宙にヒトが長期間滞在した場合のp53を中心とした遺伝子群の情報伝達系の解明に役立てるものです。「ヒト培養細胞におけるTK変異体のLOHパターン変化の検出(略称:LOH)」は、宇宙放射線による遺伝的影響を高感度に検出する実験です。この遺伝的影響を高感度に検出するのに、ヒト培養細胞で遺伝解析のできるLOH変異解析システム(Loss of Heterozygosity:ヘテロ接合性の喪失)を利用します。「ヘテロ」とは「異なる」という意味のギリシャ語で、「ホモ(同じ)」の反意語です。LOHとは対立遺伝子の一方が消失する現象で、染色体を変異させたヘテロの遺伝子の安定性を指標にした解析方法です。