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ISASコラム

第1回:国際宇宙ステーションを利用した科学実験 この夏より本格的に開始!

(ISASニュース 2008年8月 No.329掲載)

 2008年3月と6月に分割して打ち上げ、組み立てられた、国際宇宙ステーションの日本のモジュール「きぼう」は、現在システムのチェックアウトが順調に行われています。完成は、来年5月の第3便で打ち上げられる船外プラットフォームの取り付けを待たなければなりませんが、すでに取り付けられた船内実験室内では8月から本格的な科学実験が行われる予定です。

 「きぼう」は、多目的の実験室として設計製作されており、多種多様な科学利用が可能です。大まかには、船外プラットフォームでは高々度を利用した天体観測や地球観測、船内実験室では微小重力環境を利用した物質科学実験やライフサイエンス実験が行われます。私が専門とする物質科学分野では、1997年にスペースシャトルを利用したMSL-1ミッション以来10年ぶりに訪れた本格的な微小重力実験機会であり、多くの科学的な成果が今後得られることを期待しています。

 今後行われる実験については、次号以降に詳述されますのでそれをご覧いただくこととして、ここでは船内実験室を利用した実験に共通する特徴について解説したいと思います。

地上試験中の流体物理実験ラック。4つの装置が混載されている。左上の突き出し部分に最初の実験用供試体が格納される。
 国際宇宙ステーションの船内で使用される装置は、写真のように「国際標準ラック」と呼ばれる筐体に搭載されて打ち上げられます。このラック単位で装置は入れ替えられ、多様な実験に対応するわけです。一つの実験ラックは3年程度の運用を想定して設計されています。写真は流体物理実験ラックで、4つの装置が混載されています。地上の実験室でこの実験ラックに収納されている装置を普通に配置すると、たぶん4畳半程度のスペースを取るでしょう。これを小型化・軽量化して婚礼たんすサイズのラックに収納します。

 実験装置は、各実験に共通な機能を持つ部分と、個々の実験のユニークな要求に対応した部分に分けられます。前者が「共通実験装置」としてラックに搭載され、後者は「実験用供試体」として実験テーマごとに製作されて、別途「きぼう」に運ばれます。そして、実験用供試体と共通実験装置が軌道上で結合され、実験が開始されます。このようにして、個別の実験要求に対応するとともに、一つの実験装置で多様な実験に対応するわけです。

 宇宙ステーションには宇宙飛行士が滞在するので、壊れた装置の簡単な修理や部品の交換などが期待できます。一方、宇宙飛行士の命にかかわるような危険の回避は最優先事項なので、「きぼう」内の機器には厳しい安全性が求められます。実験装置の多くの機能には、故障が二つ同時に発生しても飛行士の安全に影響を及ぼさない「二重故障許容」の措置を施すことが求められます。飛行士の安全を確保しつつ小型化し、さらに最先端の実験要求に応える実験装置・実験用供試体には、参画した研究者およびメーカーの英知と努力が結集しています。

 これまで微小重力実験は、スペースシャトルでの2週間が最長でした。この短い期間に多くの実験を行うため、個々のテーマについての実験回数は非常に限定されていました。また、通常地上で行われているように、一つの実験結果をもとに次の実験条件を設定するという時間的余裕はありませんでした。さらに、ひとたび装置が故障すると、修理して再実験することは非常に困難でした。「きぼう」では、年単位の実験時間が提供されます。ここでは、パラメータを振った体系的なデータ取得実験、実験結果を反映した実験条件設定、装置の修理や修理後の再チャレンジ実験も可能となり、より地上の実験室に近い環境が研究者に提供されます。

 物質科学の分野では微小重力環境で顕著となる表面張力対流の詳細観察を皮切りに、結晶成長中の固液界面の不安定性に関する観察実験が続いていきます。これらの実験を通じて、結晶成長を構成する多くの素過程が、重力の影響を排除した環境で詳細に解明されます。こうして得られる知見は、引き続き行われる微小重力環境下での高品質材料製造実験だけでなく、地上の材料プロセッシングの高度化にも寄与します。ライフサイエンス実験では、将来の有人宇宙活動に向けた基礎データの取得が大きなターゲットになります。今後の「きぼう」利用を通じて、より多くの科学的成果を挙げて、人類の未来のために貢献したいと思います。