太陽とそのまわりの惑星は宇宙の中の小さな点にすぎず、周囲の宇宙空間はほとんどが真空であるように見えます。しかし、太陽からは水素などのイオンが大量に宇宙空間に放出され、その太陽風プラズマは毎秒数百kmという超音速で惑星・衛星に向かって吹き付けています。一方、地球は地磁気によって磁気圏という守備範囲を形成して、太陽風プラズマの侵入を防いでいます。月は大規模な磁場を持たず、公転により太陽風にさらされる領域と地球磁気圏への出入りを繰り返しています。「かぐや(SELENE)」に搭載された月磁場・プラズマ観測装置(MAP:MAgnetic field and Plasma experiment)は、このような現在の月の磁場・プラズマ環境を観測すると同時に、数十億年前の月磁場環境・月深部の進化を研究することを目的にしています。
MAPは、磁場観測装置(LMAG:Lunar MAGnetometer)とプラズマ観測装置(PACE:Plasma energy Angle and Composition Experiment)の二つのサブコンポーネントで構成されています。
PACEは、月のまわりの電子を計測する電子分析器2台(ESA[Electron Spectrum Analyzer]-S1とESA-S2)、太陽風イオンを計測するイオン分析器1台(IEA[Ion Energy Analyzer]-S)、そして月周辺のイオンを計測するイオン質量分析器1台(IMA[Ion Mass Analyzer]-S)で構成されています(図2)。PACEの各センサは静電分析器と呼ばれるもので、センサ内部にある球殻状の電極間に電圧をかけることで、測定する電子、イオンのエネルギーを選別します。IEA-S、IMA-Sには電気的に感度を変える機能があり、さらにIMA-Sにはイオンの質量を測定するための質量分析器が取り付けられています。分析器に飛来する電子やイオンのエネルギーを選別して1個ずつ計数することで、月周辺に存在する電子やイオンの密度、速度、温度を測定することができます。