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ISASコラム

第4回 月の地形と地下構造探査

(ISASニュース 2007年9月 No.318掲載)

月周回衛星「かぐや(SELENE)」に搭載される、地形カメラ(TC)、レーザ高度計(LALT)、月レーダサウンダー(LRS)により、これまでに得られていない月全球の詳細な地形と地下数kmまでの地質構造の情報が得られ、月の科学や将来の月での活動に役立てられます。


月の地形と地下構造
 月を調べることは、地球あるいは太陽系の起源や進化を知るためにも重要です。月の調査項目の中でも、表面の地形、あるいは地下の構造の調査は、最も重要なものの一つです。溶岩に覆われた大規模な「海」、「ドーム」と呼ばれる火山性の盛り上がった地形、「リル」と呼ばれる溶岩の流れた痕、奇妙な渦巻き模様構造、局所的に残る磁気異常、そして、月全体を覆う無数のクレータとそのまわりの「レイ」と呼ばれる飛散物のさまざまなパターン。月には多くの調べるべき地形、構造があります。これらの地形や構造はいつできたのか? どうやってできたのか? 地球との相違あるいは類似性は?

 「かぐや」に搭載される地形カメラ(TC)、レーザ高度計(LALT)、月レーダサウンダー(LRS)は、これまでに得られていなかった月全球の高精度な地形や構造情報を取得し、これらの謎の解明に迫ります。また、極地域を含む月の全球にわたる地形や地下構造の詳細把握は、月での調査拠点、月からの地球や宇宙の観測、月自体やほかの天体の試料の解析といったことに用いられる月面基地建設のための貴重で重要な情報にもなります。



地形カメラ(TC)
 TCは、1次元CCDを搭載した2本の望遠鏡からなる、立体可能なデータを取得する機器です。TCは衛星高度100kmから空間分解能10mで月全球の均質な画像情報を収集します。また立体視撮像を行い、20m以下の高精度の月全球の数値地形モデル作成を目指します。これまでに、アポロ探査機データで10m以上の解像度の画像は一部得られているものの、それらは赤道付近の東側に限られ、ほとんどが100m程度の解像度の画像しか得られていません。解像度の高い画像が得られると、例えばクレータの把握率が高まり、クレータの分布密度を調べることで行われる年代推定精度の向上が期待されます。さらに、TCによる月面数値地形モデルは、マルチバンドイメージャやスペクトルプロファイラの地形補正にも重要な役割を果たします。

地形カメラ(TC)とレーザ高度計(LALT)による観測 月レーダサウンダー(LRS)による観測

レーザ高度計(LALT)
 LALTは、波長約1μmのレーザにより、5mの距離測定精度で1秒ごと(月面では約1.5kmごとに相当)の高度データを取得します。LALTにより得られる表面の起伏の詳細情報は、RSAT/VRADミッションから得られる重力場データと合わせて、月内部構造についての重要な情報にもなります。例えば、クレータなどが形成され表面物質が取り除かれると、その地下は長い年月を経て盛り上がろうとしますが、地下の冷え固まりが早いと、地下の盛り上がりが不完全になります。こうした状況を調べることで、月の内部の熱的な進化の解明が期待されます。また、LALTは、クレメンタイン衛星で得られていた従来の月の高度情報をはるかにしのぐ高精度かつ高頻度の月面高度データを提供するので、極域(緯度75度以上)を含む月面全体の高精度地形図作成が可能となります。


月レーダサウンダー(LRS)
 LRSは、それぞれ15mの長さの4本のダイポールアンテナを持ち、そのうち2本からHF帯(約5MHz)の電波を発射し、月表面や地下数kmからの反射波をとらえます。電波の往復時間と受信強度を解析することで、月表層下の地質構造が把握されます。これまで同種の探査はアポロ計画で一部なされただけであり、LRSにより把握される月全球の地下構造は、月の進化過程の解明に重要な情報となります。例えば、「海」の地下構造はどうなっているのか、厚い飛散物の下に過去の溶岩噴出の名残があるのか、磁気異常地域の地下には電波を反射するような岩体があるのかといったことが分かり、その詳細を研究することで月の進化に迫ります。