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ISASコラム

ISASニュース 新旧委員長 対談
(ISASニュース 2012年5月 No.374掲載)
 
『ISAS ニュース』編集委員長が2012年4月号から交代しました。2008年から編集委員長を務めた村上浩教授(写真右)からバトンを受け取るのは、森田泰弘教授(写真左)です。新旧編集委員長に、『ISAS ニュース』の課題や 目指すべき姿などについて、語っていただきました。

村上:編集委員長を森田先生にお願いするに当たって、小野田淳次郎所長に了承をいただきに行きました。すると、「彼は昔、原稿が締め切りに間に合わなかったことがありましたよ」と言われたのですが……。

森田:日本ロケット協会の月刊誌のことですね。1956年に糸川英夫先生が設立した由緒ある協会で、1998年ごろから10年以上編集長をやっていました。しかし、宇宙3機関が統合してJAXAになったころから発行がどんどん遅れ、最近ようやくクビになりました。だから、私は編集委員長というものに向いていないと思うのですが。

村上:その反省を生かしてくださると信じて第6代編集委員長をお願いすることにしました。『ISASニュース』にはどんな印象をお持ちですか。

森田:研究機関の広報誌はたくさんありますが、『ISASニュース』は、ほかと少し違いますよね。自由な雰囲気が伝わってくる。書き手の自由、編集する側の自由、その両方を感じます。それは、宇宙研の文化が育んできたのでしょう。そして、研究者が自らの言葉で語ることにこだわっている点も、ユニークですね。「単なる広報誌ではないぞ」という主張を感じます。

村上:しかし、研究者が書いているために難解で、一般の人には分かりにくい記事が時々あります。原稿を依頼するときには「高校生が理解できるレベルで」とお願いしているのですが、正確に書きたいと思うあまり難しくなってしまうのでしょう。研究者に正確さを捨てろというのは、研究者としての良心を捨てろといわれているのと等しい。正確さを捨てずに、一般の人に興味を持っていただける記事を書くにはどうしたらいいか。まだその答えが見つけられずにいます。
 一方で、小惑星探査機「はやぶさ」は、とても多くの人に関心を持っていただきました。経験したことがない盛り上がりに、どこまで巻き込まれていいのだろうという戸惑いも感じました。「はやぶさ」人気を見ていて、森田先生はどう感じましたか。

森田:「はやぶさ」は、地球に帰ってくるというとても分かりやすいミッションです。放っておくと、そういう分かりやすいミッションだけしか注目されないのだと、感じました。宇宙研には、「はやぶさ」と同じように面白いミッションがたくさんあります。例えば、村上先生の専門である赤外線天文学もそうです。「はやぶさ」のような分かりやすさはありませんが、星の誕生を探っているのだと少し説明してもらうと、わくわくします。各ミッションについてきちんと説明して興味を持ってもらうことが大事。
 私は今、新時代の固体燃料ロケット「イプシロン」の開発に取り組んでいます。新しいロケットを打ち上げるというのは分かりやすいので、1号機は話題になるでしょう。しかし、放っておいたら、2号機以降は注目もされない。新しいロケットをつくる意義や、それによってどのような未来を切り開くことができるのかを、分かりやすく伝えていく必要性を感じています。

村上:『ISASニュース』は、単なる広報誌ではなく、研究者が意見を発信することにもこだわってきました。宇宙科学や宇宙開発の現状についてかみつくような記事も欲しいのですが、なかなか思い切った内容を書いていただけません。

森田:M-V型ロケットの引退について、秋葉鐐二郎先生はかなり踏み込んだことを書かれていました(2006年12月号「いも焼酎」M-Vロケットの最期)。「君たち、しっかりしろよ」といった先輩からの辛口のメッセージがあってもよいと思います。

村上:4年前に編集委員長を引き受けたときは、自分なりに『ISASニュース』を変えることができればと思っていたのですが、大きなことはできずに終わってしまったことが少し残念です。森田先生には、新編集委員長として自由にやっていただきたい。期待していますよ。

森田:2008年の宇宙基本法施行を受けて、JAXA法の改定を含んだ行政側の宇宙開発体制の変更が進みつつあります。また、来年度からの新しいJAXA中期目標の検討も始まっています。宇宙研は今、どう進んでいくべきかを決めなければいけない時期にいます。上層部が決めたことを伝えるだけではなく、研究者の意見を吸い上げながら宇宙研の進むべき方向を示したり、提言を発信したりしていく。そういう『ISASニュース』にしていきたいと思っています。