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ISASコラム

宇宙・夢・人

美しい宇宙研を次世代に

(ISASニュース 2012年8月 No.377掲載)
 
衛星運用グループ/通信・データ処理グループ 開発員 平原 大地
ひらはら・だいち。1984年、東京都生まれ。工学修士。横浜国立大学大学院工学府物理情報工学専攻修士課程修了。2009年、JAXA入社。
Q: 科学や技術に興味を持ったきっかけは?
企業のエンジニアだった父が、科学雑誌『Newton』を定期購読していて、家の本棚にバックナンバーが並んでいました。幼稚園のころ、それらを取り出して、科学衛星の観測画像や深海生物の写真などに好奇心を刺激され、気になったことは父に質問したりしていました。
やがて自分でも記事を読めるようになるにつれ、難しい宇宙探査の実現や科学的な発見には、技術の発達が不可欠なことに気付くようになりました(今では経済や政治的背景から技術以外の発展要素の重要性も見えてきましたが)。私は子どものころからロジカルに物事を考える癖があります。日本が強いエレクトロニクス技術を学べば、世界でも通用する実力を付けることができるはずだ、と考えました。そして家族や教師の勧めもあり、早くから専門的な技術を学ぶことのできる高専に進学しました。
ちょうど、カラー液晶の携帯電話が出始めたころです。小型で多機能な携帯電話に、先端エレクトロニクス技術の大きな可能性をひしひしと感じました。そして高専のときから、テラヘルツ波受信デバイスなどの先端技術を学びました。やりたいことが早くから見つかり、それをとことん学ぶには、高専はとてもいい環境だと思います。
Q: そして高専から大学へ進学されました。
まだまだ学びたい、より充実した環境で研究開発を経験したいと大学へ進み、次世代半導体や、修士課程で光集積回路など挑戦的な次世代技術を好んで学びました。そして、集中して深く研究する分野をもっと知見を増やしてから検討したいという希望もあり、修士課程を修了した後は全体がよく見て取れる組織に就職したいと思いました。
Q: JAXAに研究開発系として入社、宇宙研での仕事は4年目ですね。
試験設備や運用施設の維持・改修、利用調整を行う一般管理業務が中心の衛星運用グループに所属しています。私の部署は特にそうですが、宇宙研では仕事のやり方が明確化されていないことが多く、とても苦労してきました。新しく部署に赴任した人は、所内を走り回って話を聞くべき人を探し出し、顔と名前を覚えるところから始めなければいけません。職人技とされるノウハウを、十年かけて修得することが求められる仕事もあります。そして役割分担があいまいなため、あつれきが生じるケースがあります。
そのような仕事の進め方にやる気が低下し、疲れ切ってしまっている人がたくさんいます。実際に若手から離職者も出ています。
私は、宇宙研などが成し遂げてきた宇宙科学の成果を子どものころから見聞きすることで、科学技術に興味を持ち、勉強も頑張ることができました。その宇宙科学の研究所である職場をより魅力的にしたいと思います。ノウハウを持った団塊の世代の人たちが続々と引退されている中、今は業務の体系化やノウハウのマニュアル化が必要となる移行期だと思います。十年かけて修得していたノウハウも、きちんとしたマニュアルをつくれば、半年で修得することが可能かもしれません。
Q: どこから手を付ければ改善できますか。
一人ひとりが身の回りを整理整頓するだけでも、かなり仕事がしやすくなると思います。宇宙研には引退した方が残していった手付かずの箱があちらこちらにあります。それらを整理することで、自分の装置を置く場所がなくて困っている若手研究者の方々に、スペースを提供できるはずです。少なくとも、今の部署に次に来る人が私と同じ苦労をしなくて済むように、物や書類を整理しておきたいと思います。
そのような職場環境の改善を進めながら、私には将来、ぜひ実現したい夢があります。観測機器や電気・通信系を網羅した「究極の宇宙エレクトロニクス」です。
Q: 具体的には?
それは内緒です。日本のエレクトロニクス技術の進展を見ながら、私の夢が技術的に実現可能な時期が来たら、具体的なプロジェクトを提案したいと思います。大好きだった日本のエレクトロニクス産業は今、苦境に立たされています。その産業界にいる人たちを宇宙から元気づけ、応援するようなプロジェクトにしたいですね。そのために今は、若さと健康を保ちつつ、必要な勉強を進めています。