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ISASコラム

宇宙・夢・人

コミュニケーション力で宇宙科学を推進

(ISASニュース 2011年8月 No.365掲載)
 
科学推進部 計画マネージャ 宇宙科学プログラム・オフィス 併任 内木 悟
ないき・さとる。1967年、栃木県生まれ。東北大学法学部卒業。1991年、宇宙開発事業団(NASDA)入社。種子島宇宙センター技術課、調査国際部国際課、総務部、経理課、人事部能力開発課、システムズエンジニアリング推進室などを経て、2010年より現職。
Q: 科学推進部では、どのような仕事をされているのですか。
私のポジションは、宇宙研の経営企画部のようなところです。宇宙研の事業計画を立て、実行するための予算を組み、配分します。しかし、宇宙研の予算の大部分は国から受ける運営費交付金などが占めていますから、文部科学省や財務省などにプロジェクトや研究について説明し、その意義を認めてもらうことが必要です。プロジェクトの進捗状況を把握し、問題があれば解決のお手伝いをすることも、私たちの仕事です。科学推進部は、宇宙研の事業のプラン(計画)、ドゥ(実行)、チェック(評価)、アクション(改善)のすべてに関わっています。
Q: 予算の交渉には秘訣があるのですか。
数あるプロジェクトの中で宇宙研のプロジェクトの意義を認めてもらい予算を獲得することは、とても大変です。研究者や技術者からの情報を単に伝えるだけでは不十分で、自分が興味を持ち、ぜひこのプロジェクトを実現したいという強い思いがなければ、人を説得することはできません。そして、一般の人や政治家など、さまざまな立場の人の意見も踏まえることが必要です。日頃から視野を広くし、情報収集を心掛けています。交渉の秘訣というものは持っていませんが、大切なのはコミュニケーション力ですかね。
Q: 交渉が難航し、挫折したことはありませんか。
難しい交渉はたくさんあったと思いますが、忘れちゃいました。どんな場面も、「苦しかった。けれども、こうして乗り越えた」と納得ずくで終わるので、いわゆる挫折の経験はないのかもしれません。
Q: 子どものころや学生時代のことを聞かせてください。
小中学時代は野球少年でした。読書も好きで、理屈・理想に走る傾向もありましたね。高校は遠かったので部活はできませんでしたが、その分、文化祭や体育大会などイベントでは燃えました。合唱祭をきっかけに男声合唱にはまり、大学生活を合唱に費やすことに。大学の男声合唱団では指揮者を目指すも選挙に敗れ、委員長として合宿や演奏会などのマネージメントをしていました。男ばかり80人の集団をまとめるのは大変でしたが、そこでも大切なのはコミュニケーション力でしたね。
Q: 男声合唱の魅力は?
男声合唱は低くて狭い音域の中でハーモニーをつくるので、強い共鳴が起きます。観客側も共鳴を感じますが、歌う側にいると体も心も震えるほどです。歌いながら泣いてしまうときもあります。悲しいわけでも、うれしいわけでもなく、自然と涙があふれてくるのです。そういう経験を一度してしまうと、もう一度味わいたいと、のめり込んでいきました。
Q: 法学部のご出身です。なぜNASDAに就職したのですか。
事務系の枠にとらわれない、人生を懸けられる目標を持った仕事をしたいと思っていました。子どものころから宇宙が好きだった私にとって、NASDAは格好の職場だと思えたのです。しかし、最初の配属の内示を見て驚きました。種子島宇宙センター技術課……。事務系の枠にとらわれない仕事がしたいとは言ったが、何かの間違いだろうと。しかし、初めにロケット射場の運営や打上げに携わることができたのは幸運でした。あのときに学んだことや人脈は、今の仕事に生きています。
Q: その後、数年ごとにさまざまな部署に配属されています。
専門性はいまひとつですが、どの部署でも貴重な経験をし、多くのことを学んできました。そうした経験が、今の私を支えています。人事部能力開発課にいた4年間は新人研修を担当しました。だから、その間に採用された人は全員私を知っていてくれます。皆さんいろいろな部署で活躍していますから、聞きたいことがあると彼らに声を掛けます。貴重な人脈ですね。
Q: JAXAにはどのような人に来てほしいですか。
私が就職したころ、NASDAは文系の人にはほとんど知られていませんでした。それが今や、就職したい企業に名前が挙がるほどです。そのため、数ある企業の一つとしてJAXAを選ぶ人が増えているように感じます。やはり、宇宙に対して強い思いを持っている人に来てほしいですね。仕事への取り組み方も違ってくるでしょう。また、事務系であれば、事務の殻に閉じ込もらずに技術者や研究者との橋渡しができる意欲を持った人に来ていただき、活躍してほしいですね。
Q: 今後やりたいことは?
一度JAXAを出て、企業の経営企画部門などで働いてみたいですね。外の世界を知り、外からJAXAを見ることで、JAXAの良い面や悪い面が見え、新しい発見もあるでしょう。