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ISASコラム

宇宙・夢・人

『ISASニュース』と同い年です

(ISASニュース 2011年7月 No.364掲載)
 
宇宙プラズマ研究系 助教 笠原 慧
かさはら・さとし。1981年、埼玉県生まれ。博士(理学)。2009年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。2009年、JAXAプロジェクト研究員。2009年〜2011年、工学院大学非常勤講師(兼任)。2011年より現職。専門は磁気圏物理学。ERG衛星に搭載する中間エネルギープラズマ分析器の開発などを行っている。
Q: 『ISASニュース』と同い年だそうですね。
はい、今年30歳になります。4月に編集委員になって初めて出席した編集委員会で、「30周年記念号のインタビューは30歳の人がいいね」という話になり、「笠原さん、いくつ?」「今年30です」「決まり」……ということで、今ここに座っています。
Q: 編集委員会はどのような雰囲気ですか。
まず、皆さんとても忙しい方々なのに、出席率が高いことに驚きました。そして、研究成果には直接結び付かないにもかかわらず、どうしたら『ISASニュース』がもっと良いものになるか、一生懸命話し合っている。その様子に感動しました。
Q: どういう経緯で編集委員を引き受けたのですか。
編集委員をされている同じ宇宙プラズマ研究系の松岡彩子さんから声を掛けていただきました。編集委員って、正式に任命されるものではないのですね。『ISASニュース』は学生時代から読んでいましたから、その中身を考えるのも面白そうだなと、喜んで引き受けました。以前から宇宙科学や宇宙研について一般の人々にもっと伝えるべきだと考えていて、学校での講演なども積極的に行っています。でも、講演は難しいですね。私の専門は宇宙プラズマですが、「プラズマとはイオンと電子の粒々です」と説明しても、子どもたちはきょとんとしている。編集委員の経験を通して、宇宙科学を分かりやすく伝える技も身に付けたいですね。
Q: 現在は、どのような研究をされているのですか。
磁気圏観測衛星ERGに搭載する中間エネルギープラズマ分析器を開発しています。ERGが観測するバンアレン帯には、エネルギーが低いプラズマと非常に高いプラズマがあります。理論研究などから、高エネルギープラズマの生成には中間エネルギーのプラズマが重要な役割を果たしているらしい、と考えられています。しかし、これまでの衛星に搭載されている分析器では中間エネルギープラズマの観測が難しく、粒子の加速メカニズムは未解明のままでした。そのため、中間エネルギープラズマ観測の実現が切望されていたのです。
Q: 世界初の分析器をつくるのですから、苦労されたのでは?
大学院での研究テーマに決まってからは、一日中、分析器のことばかり考えていました。1ヶ月ほどたったある日、もう寝ようとベッドに入ったところ、ふとアイデアが浮かんだのです。取りあえずメモだけして寝ました。翌朝メモを見直し、これはいけると確信しました。それが、現在開発中の分析器です。最大の特徴は形。従来のプラズマ分析器から形状を変えてしまうことで、中間エネルギープラズマの計測を可能にしました。怖いもの知らずで失うものが何もない大学院生だったから、そんな大胆なアイデアが浮かんだのでしょう。現在は、実験室で試験をしながら改良を重ねているところです。ERGの打上げは2014〜15年の予定です。世界最高スペックで中間エネルギープラズマを計測し、粒子が加速される様子を捉えることができると期待しています。
Q: どういう子どもでしたか。
小学生のころはミニ四駆の改造にどっぷりはまりました。市販のパーツでは満足できずに、パーツを手づくりして極限まで軽量化し、友達と速度を競っていました。そうした工作好きが、分析器の開発につながっているのかもしれません。
Q: 好きな教科は何でしたか。
体育。体を動かすことが大好きで、中学・高校はバスケットボール部、大学では体育会ヨット部に所属していました。ヨットは優雅に見えるかもしれませんが、過酷なスポーツです。でも、ごくまれに、晴天で風がほどよく吹いて、とても気持ちのいい日があります。そういう日にぼーっと海に浮かびながら、このまま勉強らしいこともせずに大学を卒業して就職するのは何だかもったいないので大学院へは進学しよう、と思ったのです。そして、流れに身を任せ、気が付いたらここに来ていました。
Q: 30年後はどうしているでしょうか。
今年、子どもが生まれました。女の子で、めちゃくちゃかわいい。30年後、彼女がすてきな人と出会って幸せになっているといいな……。あ、研究のことを話した方がいいですか(笑)。
磁気圏の研究は、木星や土星、系外惑星へと広がっています。私も木星磁気圏の観測データ解析や将来探査計画の搭載機器の検討にも加わっています。今後10〜20年で、木星や土星、系外惑星の観測が進むでしょう。それらの観測結果を理解するためにも、20〜30年後には再び地球に戻ってこないといけない。そのときも、自分が開発した分析器で新たな発見をしたいですね。そのためにも「三十にして立つ」をモットーに日々励んでいます。難しいですが……。