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ISASコラム

宇宙・夢・人

失敗を恐れず独創的な挑戦を

(ISASニュース 2011年5月 No.362掲載)
 
宇宙航空研究開発機構 執行役 須田 秀志
すだ・ひでし。1957年、岐阜市生まれ。東京大学法学部卒業。1980年、文部省入省。学術、教育関係の行政に携わる。宇宙政策課長、参事官(宇宙航空政策担当)、海洋地球課長、地震調査研究課長などを経て、2011年2月より現職。
Q: 行政官として宇宙分野を担当されたのは、いつからですか。
2004年7月に宇宙政策課長になってからです。2006年まで担当しました。当時はロケットの打上げ失敗や人工衛星の故障などが続き、宇宙開発に対する世間の風当たりが強かった時期です。関係者の雰囲気がとても暗かった。
それが昨年「はやぶさ」のフィーバーが起きて、宇宙研のキャンパスでは今、「はやぶさ」を題材とした映画の撮影が行われています。隔世の感がありますね。
Q: なぜ、あれほどのフィーバーになったのでしょう。
日本は今、多くの人たちが将来への希望を抱きにくい困難な状況にあります。そのような中、小惑星から試料を持ち帰るという世界初のプロジェクトに挑戦し、数々の困難を克服した「はやぶさ」の姿に、多くの人たちが感動したのでしょう。子どもからお年寄りまで、これほど広範な人々に共感を持っていただいた宇宙プロジェクトは、初めてではないでしょうか。
Q: 地震調査研究課長も務められましたが、東北地方太平洋沖地震について、どう感じられましたか。
誰も予測していなかった規模の地震です。私たちは地球のことについてすら、ほとんど分かっていなかった。自然に対してより謙虚にならなければいけないと思いました。まして宇宙となると、まったくの未知の世界が広がっています。
地震の予測が難しいのは、地震の起きる現場が地下深くにあって、直接観測ができないからです。宇宙科学においても、現場に行って直接観測することが大切です。宇宙研はまさにそれを担う機関です。
宇宙開発においては、ロケットを使って宇宙に行くことが重要な課題でした。しかし現在、HU-Aロケットの打上げ業務のほとんどが三菱重工業に移管されたように、宇宙へ行くこと自体は、民間が主体となって担っていくでしょう。今後の宇宙開発では、宇宙での観測や惑星探査などがますます重要になります。これからは、宇宙科学の時代です。
Q: 日本の宇宙科学は何を目指すべきですか。
米国・欧州と並ぶ3極の一つとして世界に貢献していくべきです。宇宙研がトップランナーとして走ることができるように、私も基盤づくりに努めていきたいと思います。
ただし、日本の宇宙開発の予算はNASAの10分の1、宇宙科学に限れば20分の1の規模です。そのような中、予算を増やす努力をする一方で、ほかの国がやらない独創的・挑戦的なプロジェクト、すなわち、きらりと光るプロジェクトを主導することが重要です。「はやぶさ」が良い手本を示してくれました。失敗を恐れていては、新しいことはできません。もちろん単純なミスによる失敗は駄目ですが、挑戦的なプロジェクトでの失敗は許されると思います。特に惑星探査では、成功するかどうか分からないような挑戦的なプロジェクトを、もっと積極的に進めていくべきです。
Q: 未知の世界に挑んでいく人材を育成するには、何が必要ですか。
ハングリー精神がなければ、挑戦する心は育ちません。教育行政にも携わってきた立場として反省を込めて思うのですが、インドや中国の学生の必死さに比べて、日本の学生には危機感が足りない。世界の現実を直視して、競い合っていく気概が必要です。そのような意味でも、宇宙研が挑戦的なプロジェクトを進め、困難な状況を乗り越えていく姿を若い世代に示すことに意義があると思います。
Q: 若いころ、宇宙に興味はありましたか。
宇宙の果てについて、素朴に考えたことはあります。学生のころから囲碁に興味がありました。囲碁は中国が起源で、「天元」「星」といった用語があるように、天文と関係しているといわれています。
Q: 宇宙研の職員との対局は?
まだないですね。今は家で、インターネットによる対局を楽しんでいます。物理や数学の研究者には囲碁が好きな人も多いと思うので、ぜひ今度、一局お願いしたいですね。