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ISASコラム

宇宙・夢・人

目指せ! JAXA国民認知度100%

(ISASニュース 2011年4月 No.361掲載)
 
月・惑星探査プログラムグループ 開発員 細田 聡史
ほそだ・さとし。1973年、愛知県生まれ。博士(工学)。2003年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。九州工業大学工学部産学連携研究員を経て、2006年よりJAXA研究員。2011年4月より現職。イオンエンジン開発および「はやぶさ」運用に従事。専門は非化学推進、プラズマ工学、宇宙機帯電、宇宙機器の研究開発など。最近は広報・普及・教育活動にも精力的に取り組む。
Q: イオンエンジンの開発をされています。小惑星探査機「はやぶさ」にも搭載されたイオンエンジンとは?
キセノンというガスをプラズマ化して、プラスの電気を帯びたイオンを超高速で噴射することで推進力を得るエンジンです。衛星打上げロケットなどに使われている燃料を燃焼させて推進力を得る化学推進エンジンと比べると、イオンエンジンは推進力は小さいのですが、燃費がとてもいいという特徴があります。小惑星イトカワへの往復という「はやぶさ」の偉業は、イオンエンジンがなければ実現できませんでした。
そのイオンエンジンをつくったのが、私が絶対の信頼を寄せている國中均先生です。國中先生は、「はやぶさ」プロジェクトが立ち上がる前に、「月より遠い天体まで行って試料を持ち帰ってくるには、このエンジンが必要だ」と一人でイオンエンジンの開発を始めました。彼の未来を見る目は確かです。私は今、國中先生の技術を引き継ぎながら、「はやぶさ2」のイオンエンジンを開発しています。「はやぶさ」のイオンエンジンは宇宙で思いがけぬトラブルに見舞われました。のべ4万時間もの運転の記録を読み取りながらトラブルの原因を探り、改良を進めているところです。並行してイオンエンジンの商業展開を目指した開発を企業と進めています。
Q: イオンエンジンの商業展開とは?
気象衛星や通信衛星は時々軌道を修正する必要があり、そのために小型の化学推進エンジンを積んでいます。衛星の機能は正常でも、その燃料切れによって運用を終了せざるを得ない例が多くあります。燃費の良いイオンエンジンを使えば、衛星の寿命を延ばすことができます。また、化学推進エンジンと比べて細かい軌道修正ができるため、衛星を安全に高密度で配置することが可能です。イオンエンジンの開発を通じて、人々の生活をもっと便利に豊かにすることに貢献できたらうれしいですね。
Q: 宇宙やロケットエンジンに興味を持ったきっかけは?
家業がものづくりをしていたため、パソコンや電子機器が身近にあったからでしょうか。小さいころからデジっ子で、工作やコンピュータプログラムを組んだりすることが大好きでした。この道に進んだ大きなきっかけは、高校生のころに見た『トップをねらえ』というSFアニメです。そこに登場する超光速宇宙船に憧れ、まだ誰も実現していないロケットエンジンをつくりたいと、航空宇宙学科のある大学に進みました。そして大学1年生のとき、宇宙研の一般公開でイオンエンジンに出会い、これだ! と、一瞬で魅せられてしまいました。
Q: この仕事の魅力は?
自分でものをつくるって、面白いですよ。自分がつくったものが不可能を可能にし、科学を進めていくのですから。でも、1ヶ所でもはんだ付けを間違えただけで故障する。因果関係がはっきりしているところが、ものづくりの楽しさでもあり、怖さでもあります。
Q: 「はやぶさ」の地球帰還時は、広報も担当されました。
5年ほど前に出身高校で講演をしたとき、JAXAを知っている生徒は一人もいませんでした。どんなに最先端の技術を開発し、科学的成果を挙げていても、皆さんに知られていなければ意味がありません。広報、普及、教育をしていかなければJAXAの未来はないと感じていたので、迷わず立候補しました。
Q: ブログやツイッターを活用し、大きな反響がありました。
広報活動で大切なのは、分かりやすい情報を、即時性をもって、継続的に発信すること。しかも、情報を一方的に出すのではなく、皆さんも参加し、共感できることが重要です。そして、「はやぶさ」の最大の魅力は、本物の技術とそれを支える人間ドラマです。現場の生の声を皆さんに届け、皆さんの「頑張れ!」という声を現場に届ける。それを目指しました。
「はやぶさ」を応援する声は、「あかつき」「IKAROS」「みちびき」へとつながり、次第に大きくなってきたと感じています。JAXAの国民認知度を100%にしたいですね。
Q: 休日には何をされていますか。
体を動かすことが好きなので、地域の野球チームに入って白球を追い掛けています。息抜きにもなるし、違うコミュニティの人たちとの触れ合いも大切です。2人の子と、もっと遊んで、もっと宇宙の話をしてあげる時間もつくりたいですね。最近、5歳の長男がJAXAの探査機・衛星たちの絵を描いてくれました(写真)。「はやぶさ」のイオンエンジンがきちんと描いてあるでしょう。よく分かっている(笑)。「ぼくも大きくなったら宇宙の仕事をしたいな」と言っています。うれしいなあ。