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ISASコラム

宇宙・夢・人

宇宙の謎解きは面白い!

(ISASニュース 2010年5月 No.350掲載)
 
高エネルギー天文学研究系 助教 竹井 洋
たけい・よう。1979年、東京都生まれ。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。オランダ宇宙研究機関(SRON)研究員を経て、2008年4月より現職。X線観測を用いた宇宙の構造の研究と、極低温で用いるX線分光器の開発を行っている。
Q: 子どものころから科学に興味があったのですか。
小学校低学年のころ、雲と天気の本を見ながら、母と明日の天気の予想をしていました。家には科学の本がたくさんあり、母は私の質問に丁寧に答えてくれました。そういったことが科学への興味につながっています。また、謎解きが大好きでした。数字のパズルに熱中し、算数や数学の問題をじっくり考え抜くことも好きでした。大学で物理学科を選んだのは、一番面白い謎解きができるのは物理だと考えたからです。
Q: 宇宙科学に進んだきっかけは?
宇宙の壮大さが魅力でした。子どものころから夜空を見上げることが好きでしたが、大学のサークル活動で初めて満天の夜空を見たときに、壮大な宇宙の姿に大きな衝撃を受けました。宇宙はどうやって今の姿になったのか、その大きな謎解きに挑んでみたくなりました。
Q: 現在、どのような研究をしているのですか。
宇宙の96%は、ダークマターやダークエネルギーと呼ばれる正体不明の物質やエネルギーで構成されていることが分かってきました。残りの4%は陽子や中性子などの「バリオン」です。私たちが観測している星や銀河はすべてバリオンからできています。しかし、人類が近くの宇宙で観測できているバリオンの量は4%のうちの約半分。残りの半分はどこに存在しているのか分かっていません。それは「ダークバリオン」と呼ばれています。私たちは今、そのダークバリオンの観測を目指しています。
Q: どのような方法で観測するのですか。
現在の宇宙モデルは、ダークバリオンは銀河と銀河の間に100万度程度の熱いガスとして分布していると予想しています。熱いガスの中の電離した酸素はX線で光っているはずです。私たちは2010年代後半にDIOSという小型衛星を打ち上げ、その電離酸素からのX線を観測して、ダークバリオンの分布を初めて明らかにすることを目指しています。それは宇宙の構造を知り、現在の宇宙モデルが正しいのかどうか検証することにもつながります。もちろん観測結果が予想通りになるとは限りません。しかし、予測と異なる観測データこそ宇宙の理解を深める重要な手掛かりとなるので、早く観測で確認したいと考えています。
その観測には従来よりも1桁以上感度の高いX線検出器が必要です。そのために、絶対温度0.05K(−273.1℃)という極低温で用いる検出器を開発しています。極低温の実験、開発には苦労も多いのですが、宇宙の大きな謎に迫ることができる、という期待があるので、ぜひ実現したいです。
Q: 研究は楽しいですか。
ええ、とても楽しいですよ! 特に未知の現象に出会い、その謎を考え抜いて解釈が得られたときの爽快感、それが研究の醍醐味です。ほかの研究者と話して、“この人は本当に楽しんで研究をしているな”と感じることも多いです。
Q: 自分のお子さんにも研究者になってほしいですか。
子どもたちには、自分が一番楽しいと思える職業に就いてほしいと思います。それが研究であるならば、研究者になるのは大歓迎です。また、楽しめることを仕事にするためには、苦労や努力も大事だと伝えたいですね。努力や苦労の分だけ身に付きますし、楽をすればよいわけではないので。
また、世界に羽ばたいて視野を広げてほしい。私はオランダの研究所で、 1年余り研究を行いました。赴任したのは1月で、朝9時まで日が昇りません。そして夏は夜10時まで日が沈みません。当たり前のことですが、日本の四季との違いを実感しました。その研究所は国際色豊かで、ティータイムには政治や経済など幅広い話題について活発に議論しました。いろいろな価値観を知り、とても面白い経験をしました。子どもたちにもさまざまな国や文化を感じてもらいたいですね。
Q: これからの夢は?
私は小さな謎解きでも楽しんでしまう性格ですが、自分や研究者に対してだけでなく、一般の人にも科学や宇宙の面白さを伝えていきたいです。宇宙の構造や進化など壮大なテーマに挑んでいるのですから、多くの人をわくわくさせることができるはず。そういういい成果を出していきたいですね。