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ISASコラム

宇宙・夢・人

無理難題にも応えます

(ISASニュース 2010年3月 No.348掲載)
 
宇宙構造・材料工学研究系 准教授 内之浦宇宙空間観測所 所長 峯杉賢治
みねすぎ・けんじ。1962年、山口県生まれ。工学博士。東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。1991年、宇宙科学研究所入所。専門は構造工学。
Q: 構造工学がご専門ですが、どのような仕事をされているのですか。
ロケットや人工衛星の構造と機構の研究開発をしています。科学衛星プロジェクトに参加し、理学研究者からの要望を形あるものにして打ち上げることが、私たち“構造屋”の仕事です。理学研究者からの要望は、常に無理難題です。しかも、“世界最高”とか“極限を目指す”とか、数値で表せるものではないことが多いから困るんです(笑)。私たちは、「どこまで我慢できるか、どこは譲れないか」と理学研究者に聞きながら、限られた時間と予算で何ができるかを一緒に見極めます。理学研究者との激しいせめぎ合いです。
Q: 「はるか」「のぞみ」「すざく」「ひので」のプロジェクトに参加されていますが、観測対象も衛星の形もすべて違います。
だからこそ面白いのです。科学衛星は世界最高の観測をしなければ意味がありません。そのためには、毎回新しいチャレンジが必要です。無理難題を言ってもらい、それを解決していくことにこそ、ISASの工学の存在意義があるのだと思います。
Q: 例えば、水星磁気圏探査衛星MMOの難しさは?
水星を周回するMMOは、地球の11倍も強い太陽の光にさらされます。対策をしないと衛星は500℃にもなり、電子機器が壊れてしまいます。そこで、太陽光が当たる面積を小さくするために、直径180cm、高さ90cmと、背の低い八角柱にしました。表面は200℃、内部は60℃を超えないようにするため、細部の構造や材料について“熱屋さん”と知恵を絞っているところです。
Q: 熱屋とは、熱設計の担当者ですね。
はい。構造屋だけでは、衛星もロケットもできません。熱屋、材料屋、電気屋、制御屋など、いろいろな分野の人と分担・協力する必要があります。ISASの技術者はみんな自分の専門分野について深い知識を持っていますが、衛星やロケットをつくるためには、ほかの分野の知識も必要です。縦棒を自分の専門分野の知識、横棒をほかの分野の知識としてアルファベットのTで表すと、ISASの技術者は縦棒がとても太いTになります。横棒も太くしたいのですが、机の上の勉強だけではどうにもなりません。プロジェクトの参加者はみんな、「これは自分の衛星だ」と思って開発します。そこに、責任感やモチベーションが生まれてくる。すると、自分の担当だけでなく、あそこも見ておこう、ここはどうなっているのか聞いてみようと、視野が広がっていきます。プロジェクトで経験を積むことによって、Tの横棒が自然と太くなっていくのです。
Q: 子どものころの話を聞かせてください。
7歳のときにアポロの月面着陸があり、テレビにかじり付いて見ていました。あのころ、私も含めて多くの子どもたちが宇宙飛行士になりたかったと思います。いつごろからか覚えていませんが、星も好きでした。遊びに夢中になり約束の帰宅時間を過ぎると、家に入れてもらえないことがありました。閉め出されてどこかに行ってしまった私を親が心配して探すと、アパートの屋上であおむけになって星を見ていたそうです。小学校高学年のときには、親にねだって屈折望遠鏡を買ってもらいました。最初に見た土星の環は、今でも覚えています。図鑑で見ていた土星とはずいぶん印象が違いましたが……。それでも、いろいろな天体に望遠鏡を向けるのは楽しかったですね。
Q: 天文学ではなく、なぜ工学の道に進んだのですか。
大学進学を前に、自分は机に座って考えるより、ものづくりの方が向いていると考え直したのです。小学6年生のときに見たアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の影響も大きかったですね。大好きで、テレビの前にテープレコーダーを置き、26話すべてを録音しました。それを何度も聞いて、せりふをすべて覚えました。
Q: 内之浦宇宙空間観測所の所長を兼務されています。
所長の重要な仕事の一つが啓発活動です。子どもたちにロケットの打上げを見てもらったり、ロケットや人工衛星の話をしています。私たちの仕事を知ってもらい、将来宇宙開発を担う人が出てくれればと思っています。ロケットを打ち上げるには、打上げ場がある肝付町をはじめとした多くの人たちの理解と協力が不可欠です。地元の人たちへの説明や交流も私の仕事です。
Q: 峯杉 准教授にとって、内之浦はどういう場所ですか。
大学院を出てすぐの、何も分からない私を鍛えてくれた場所。第二の故郷です。打上げ直前には、みんなピリピリしています。トラブルが起きれば、修羅場です。そういう状況に置かれている私たちを、内之浦の人たちはとても温かく迎えてくれます。定宿に帰ったときの「おかえり」の一言に、ほっとします。