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ISASコラム

宇宙・夢・人

趣味は衛星設計

(ISASニュース 2009年10月 No.343掲載)
 
小型科学衛星プロジェクトチーム 開発員 中谷幸司
なかや・こうじ。1975年、富山県生まれ。博士(工学)。東京工業大学大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻博士課程修了。2005年、宇宙科学研究本部宇宙航行システム研究系(日本学術振興会特別研究員ポスドク)。2007年、JAXA入社。研究開発本部宇宙実証研究共同センターを経て、2009年より現職。
Q: 子どものころから宇宙に興味を持っていたのですか。
はい。でも、興味の対象は星ではなくロケットでした。機械が好きで、家電製品を分解しては組み立てていました。元に戻せないことも多かったのですが……。大学でロケットについて学びたかったものの東京工業大学にはロケット関連の研究室がなく、松永研究室へ。そこで人工衛星をやり始めたら、とても面白い。ロケットのことはすっかり忘れ、「趣味は衛星設計」と言い切るほどに熱中しました。そのきっかけが、カンサットです。
Q: カンサットとは?
350mlのジュースの缶に、通信機器やバッテリー、コンピュータなど衛星に必要な要素をすべて入れて打ち上げます。1998年、日本とアメリカの学生が参加する大学宇宙システムシンポジウム(USSS)で提案されました。日本では衛星設計コンテストがありますが、設計のみで実際にはつくりません。カンサットはおもちゃのように小さく、打上げ高度は4kmで宇宙までは行きませんが、実際にものをつくります。その違いは大きいです。
Q: 1999年の第1回打上げから参加され、結果は?
何度も試験をして、万全の状態で迎えたはずでした。ところが、打上げの朝、突然動かなくなり失敗。とても悔しかった。翌年は気合を入れ直し、プロジェクトマネージャーとして5機つくり、すべて成功させることができました。そのときのうれしさは言葉にできません。
 USSSでは、次は宇宙を飛行する本当の人工衛星をつくろう、ということになりました。一辺10cmの立方体で重さ約1kgのキューブサットです。学生が盛り上がる一方、衛星開発の難しさを知っている先生方からは「無謀だ」と言われました。実際、カンサットを成功させたという自信などすぐに打ち砕かれ、衛星をつくり打ち上げることの難しさを何度も痛感することに。それでも、がむしゃらに頑張りました。何も知らなかったからこそできたのでしょう。悪戦苦闘の末、2003年6月30日に打ち上げられた東工大のキューブサットはCUTE-Tと名付けられ、今も現役です。
 キューブサットを同時に打ち上げた東京大学の中須賀研究室とは定期的に合同会議を開き、情報交換をしていました。後れを取っていると、次の会議までに逆転しようと頑張る。協力しつつ競争できたことも、よかったのでしょう。私は、キューブサットを経験して、宇宙の仕事に就きたいと強く思うようになりました。
Q: 宇宙研でのポスドクを経て、経験者採用でJAXAへ。
いわゆる中途採用で、分野ごとに募集があります。「小型衛星」とあったので、迷わず応募しました。現在は、小型科学衛星プロジェクトチームに所属し、衛星の基本的な機能を担うバス部を開発しています。そのバス部は、小型科学衛星シリーズで共通して使用します。
Q: 衛星の開発で大切なことは?
ほかの人の話をよく聞くことではないでしょうか。衛星の開発は1人ではできません。構造や通信など、それぞれの専門知識を持っている人とコミュニケーションを取ることが不可欠です。
Q: 今後どのような仕事をしていきたいですか。
これまでに、2003年打上げのキューブサット、2006年のソーラー電力セイルの機能試験を目的としたSSSAT、2009年の東大阪宇宙開発協同組合の「まいど1号」の技術支援、小型実証衛星SDS-2の設計に参加してきました。衛星は1kg、7kg、50kg、100kgとだんだん大きくなり、今開発している小型科学衛星シリーズは300〜400kgです。この先、大型に進むのか、小型を極めるのか。私自身がどちらを選択するかはまだ考え中ですが、宇宙科学研究を進めるためには、数kgから数十kg級の小型衛星をもっと打ち上げるべきだと思っています。開発期間が2〜3年と短く、大型衛星の相乗りとして打ち上げることができる小型衛星は、最先端の挑戦的なミッションに最適です。私がぜひ開発したいのは、地球に再突入して実験試料を回収できる小型衛星。目的の天体に着いたら親機から離れて独自の観測をする小型衛星もつくりたいですね。
Q: 開発に参加した衛星が3年おきに打ち上がっています。
小型科学衛星シリーズの1号機SPRINT-Aの打上げ予定は2012年。ぜひ成功させて、3年おきの打上げ記録を更新したいです。しかも、これまでの打上げロケットは、ロシアのロコット、M-X、H-UAと毎回違います。小型科学衛星の打上げは次期固体ロケットの予定なので、ますます楽しみです。